名古屋の中川コロナで「キネマ旬報映画祭〜スクリーンによみがえるキネマ旬報ベスト・テン〜」という企画があり、過去にキネマ旬報でベスト・テンに入った国内外の作品が上映されていた。
『絵の中のぼくの村』東陽一監督/1996年
絵本作家田島征三の原作を映画化したものだが、子ども向けというより郷愁を感じさせる大人の作品だった。幼いときに過ごした田舎の生活、双子の少年が体験した不思議な出来事を淡々と描いてあった。
優しい母親で教師でもある人がセンジだけは家に上げなかったのには驚いたが、自分が小さい時、母から「あの子とは遊んじゃいけない」と言われたことを思い出した。理由は「病人がいるから、うつるといけない」だった。
その頃の日本の田舎という時代空間にすっぽり入って懐かしい気分になった。
※子役の双子少年が◎。喧嘩をするシーンが印象的で、きっとここの場面は演技の喧嘩が本気の喧嘩になって、監督さんも「少し長いけど、これは本物だ」と長回ししたのではないか・・・と推測した。
『十九歳の地図』柳町光男監督/1979年
地方から上京してきた19歳の青年・吉岡まさるは新聞配達をしながら予備校に通っている。寝泊りするのも配達所。37歳の独身男・紺野と同室だ。
まさるの受け持ち区域は300軒以上で、犬がいる家、金払いの悪い家、蔑視する家、だらしない家・・・など地図を作り「×」印を書き込む。そんな家に電話をかけて憂さ晴らしをする日々だった。
柳町光男監督作品は次に観る『さらば愛しき大地』に軍配を上げていたが、今(見てから一週間たって)になって逆転した。じわっと時代の臭いやどうにもならないイライラが「味わい」として出てきた。
主役の本間優二の青臭い演技も、定規をあてて黙々と書く地図、メモ書きの文字の稚拙さも、全部頭から離れない。同室の蟹江敬三が惚れぬく娼婦マリア・沖山秀子の関係と、まさる自身の人生の懐疑が同方向のように感じられた。この青年はその後どうなったのか、とても気になっている。
『さらば愛しき大地』柳町光男監督/1982年
茨城県の工場地帯に農家の山沢の家がある。次男の明彦は東京で働いており、一家を支えているのは砂利採取と運搬をしている長男の幸雄だ。そんな一家に不幸が襲った。最愛の幼い息子が溺死してしまったのだ。
身重の妻・文江に当り散らす幸雄は、背中に子供の戒名を刺青して供養する。
その隙間を埋めるようにかつて明彦の恋人だった女・順子と同棲を始める。二人の間には娘まり子も生まれ、孝雄の二重生活は5年近くの続いていた。
子を失ったのがきっかけでどんどん自暴自棄になり、最後は廃人同様になる根津甚八。それをハラハラしながら見守り、生活を切り盛りする愛人・秋吉久美子・・・。
『十九歳の地図』もこの『さらば愛しき大地』も名作というより、心に杭を打たれたようになった作品だった。この監督の作品をもっと観たいと思う。