2014年11月30日

東京フィルメックス 授賞式に思う (咲)

昨日は、東京フィルメックスの授賞式。その前に行われた記者会見から参加。私が気に入った作品が受賞できるかなぁ〜とドキドキ。

まずは、学生審査員賞の発表。若い方たちは、『彼女のそばで』(イスラエル)を選びました。先日、日記で紹介しましたが、障害を持つ妹と暮らす姉の思いが実に率直に描かれた物語。ストーリー展開も見事でした。

次に、観客賞。モフセン・マフマルバフ監督がグルジアで撮った『プレジデント』が受賞! ある見知らぬ国の独裁者がクーデターで地位を失い、孫と共に逃げ惑う姿を描いた物語。マフマルバフらしいダイナミックな架空の世界。

いよいよ5人の審査員が選んだ賞の発表。
まず、スペシャル・メンションが、『シャドウデイズ』(中国)に贈られました。私は残念ながら観ていないのですが、観た友人から「中国国家の恐ろしさが描かれていて怖かった」と聞いていました。一人っ子政策の歪みを描いた凄まじい映画は以前にも観たことがありますが、こうした題材を映画にする勇気に感服します。
DSCF6065 shadow.JPG

「これからも撮り続ける自信が持てました」と語るチャオ・ダーヨン監督


次に、審査員特別賞が『彼女のそばで』に。学生審査員賞とダブル受賞です。
そして、最後に最優秀作品賞の発表。フィリピンの『クロコダイル』が栄光に輝きました。あ〜これも観ていない!
DSCF6080 crocodile.JPG

受賞を喜ぶフランシス・セイビヤー・パション監督



コンペティション12作品の半分しか観てなくて、観ていない作品と比較することはできないのですが、私のイチオシ『ディーブ』と『数立方メートルの愛』は受賞できず、残念!
会場の記者から、「個人的には『ディーブ』が好き。賞を貰えなかった理由を」と質問が出ました。(よくぞ聞いてくださった!) 
DSCF6167 sinsain.JPG

審査員のお一人リチャード・ローマンドさんが、「賞は最終的に全員の意見がまとまって決めました。好みがどうしても出てきます。異なる作品を同じ土俵に乗せるのは難しい」と答えました。結局はどこの映画祭でも受賞する作品は、その時の審査員次第なのだと、つくづく思います。
審査委員長のジャ・ジャンクー監督が総評として「皆、レベルの高い作品で、背景にある社会状況や人間の関係性を知ることのできる素晴らしいものでした」と語ったように、コンペに選ばれる作品は、どれが賞をとってもおかしくないということでしょう。

ちょっと疲れてしまったので、授賞式はやめて帰ろうかなと思ったのですが、なんとか頑張って参加。
DSCF6304 golparian.JPG

記者会見の時にはまだ届いてなかったモフセン・マフマルバフ監督からのメッセージをショーレ・ゴルパリアンさんがペルシア語で読み上げてくださって、授賞式に残った甲斐がありました。現在、ロンドンにいるマフマルバフ監督。時差があるので、夜更かししているであろう息子のメイサムさんに電話してメッセージを依頼。朝早くたたき起こして書いていただいたメッセージは、世界の皆が民主的な社会で暮らせることを願う監督の思いに溢れたものでした。昨年のフィルメックスで毎日のようにマフマルバフ監督にお会いしたことを昨日のように思い出したひと時でした。

DSCF6405 crocodile.JPG

最優秀作品賞として『クロコダイル』が発表され、挨拶に立ったフランシス・セイビヤー・パション監督は、会場にいた主演女優のアンジェリ・バヤニをはじめ、関係者を舞台に呼び込みました。厳しい状況の中で撮った作品の受賞を喜ぶ『クロコダイル』チームでした。

DSCF6483 jusyoosiki.JPG

最後に審査員と受賞者のフォトセッションで授賞式は終了しました。
posted by sakiko at 18:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月29日

東京フィルメックス 『ディーブ』で、アラブから見た「アラビアのロレンス」を実感 (咲)

27日に上映されたコンペ作品 『ディーブ』(ヨルダン、U.A.E.、カタール、UK)は、第一次大戦中のオスマン帝国支配下アラビア半島西部ヒジャーズ地方を舞台にした物語。まさに『アラビアのロレンス』の時代で、どんな描き方をしているのか興味津々でした。
遊牧民ベドウィンの少年ディーブ(狼という意味)が、英国人将校をヒジャーズ鉄道近くの井戸まで道案内していく兄を追い、合流した少年は足手まといの形になるのですが、やがて英国人将校も兄も何者かに殺されてしまいます。
兄が少年に「オスマントルコが鉄のロバ(ヒジャーズ鉄道)を作って、我々ベドウィンはメッカ巡礼の道案内や用心棒の仕事を失った」と語る場面があって、はっとしました。ディーブの一族は、巡礼の道案内をしている最後のベドウィンなのでした。
DSCF1440 QA.JPG

上映後、ナジ・アブヌワール監督とプロデューサー ナセル・カラジさんによるQ&A。
英国人将校のみがプロの俳優で、それ以外は、1990年代まで遊牧をしていた最後のベドウィンを配役。主役ディーブを演じた少年は、ベドウィン側の製作担当者の息子さん。「出資金を集める為のイメージボードを作る為に、ふさわしい少年を探して欲しいと依頼したら、あまり仕事をしない人でしたので、自分の息子を紹介されました」と監督。でも、輝くような存在だったのでそのまま主役に起用。心に秘めたものが目から伝わってくる少年でした。
あと印象に残ったのが、プロデューサーのナセル・カラジさんが語った「イギリスが歴史的に中東に大きな影響を与えてきたのも確かですが、オスマン帝国が社会の腐敗や分裂に与えた影響は大きく、その傷痕が今も残されていると思います」という言葉。アラブにとっては、英国もオスマントルコも恨めしい存在なのだと実感しました。   

Q&Aでは『アラビアのロレンス』との関係を問う人がいなかったのですが、ロビーで観客にサインをしている際に尋ねた方がいました。「あの映画はもちろん素晴らしいと思いますが、ロレンスへの評価は別です」と監督。私も プロデューサーのナセル・カラジさんと個人的にお話し、「アラブにとってロレンスは決してヒーローではないですよね」と確認。「アラブが見たアラビアのロレンス」(スレイマン・ムーサ著, 翻訳: 牟田口義郎, 定森大治)を思い出した次第でした。
ロケをしたのは、『アラビアのロレンス』と同じワディ・ラムともう一つのワディ。(名前を失念しました)
1988年に訪れたことがあって、雄大な光景を懐かしく思い出しました。
DSCF1455 theeb.JPG

「ディーブを演じた少年、俳優を目指しているのでしょうか?」と監督に伺ったら、「それはまだわからないですね」とのこと。 監督ご自身もとても素敵な方でした。
posted by sakiko at 09:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月26日

24日の東京フィルメックス、韓国社会をずっしり感じた2本 (咲)

東京フィルメックス 3日目の11月24日。韓国映画を続けて2本拝見。

『扉の少女』(仮題)
港町ヨス。警察署長として着任した女性ヨンナムが、養父から暴力を受けている少女ドヒを匿ったことから、ヨンナムの過去が暴露される・・・
家庭内暴力、性的マイノリティへの偏見、さらには外国人不法就労問題を織り込んで描いたチャン・ジュリ監督の長編デビュー作。
『冬の小鳥』のキム・セロンちゃんが、ちょっと成長した姿で養父の暴力に立ち向かう少女ドヒを体現。

上映後、警察署長を演じたペ・ドゥナと、チャン・ジュリ監督が登壇。
DSCF1354do.JPG

ペ・ドゥナさん。思えば初めてお会いしたのは、2003年に『ほえる犬は噛まない』が日本で公開された折の記者会見の時のことでした。初々しかった〜!
http://www.cinemajournal.net/special/2003/hoeruinu2/index.html

DSCF1362 kantoku.JPG

チャン・ジュリ監督。ペ・ドゥナさんとは年齢も近く姉妹のような雰囲気で撮影現場もとても和やかだったそうです。

まだ二人の挨拶も済まないうちに、質問の手が多数あがりました。【Q】と大きく書いた紙を掲げた男性がまず指名されました。『空気人形』からペ・ドゥナのファンという彼。「ストレス解消法は?」と質問し、「面白い質問をありがとうございます」とペ・ドゥナ。彼女らしいストレス解消法や、盛り上がったQ&Aの様子は、フィルメックスのサイトでどうぞ!

11/24『扉の少女』(仮題)チョン・ジュリ監督、ぺ・ドゥナさんQ&A
http://filmex.net/dailynews2014/2014/11/dohee-ya-qa.html

『扉の少女』は、11/27(木) 21:15からもう一度上映されます。
遅い時間ですが、チョン・ジュリ監督のQ&Aも予定されています。


『生きる』
韓国・江原道。建設現場で黙々と仕事をこなすジョンチョル。首になり、味噌工場で働き始めるが、一緒に工場の一角に住み込んだ姉が窓を開けたために味噌玉が作れなくなってしまう・・・ 
3時間たっぷり、生きることの辛さをずっしり感じさせてくれる作品でした。
DSCF1396 kantoku.JPG

上映後、パク・ジョンボム監督のQ&Aが行われました。
2011年の東京フィルメックスで『ムサン日記〜白い犬』が上映されて以来、3年ぶりの登壇。前作同様、パク・ジョンボム監督本人が主役を務めているのですが、北野監督を尊敬する監督にとって、自身が演出して演じることは当然の帰結。商業映画を撮ることになったら、自分が主演では観て貰えないかもしれないと謙遜する監督でしたが、いえいえどうして、素敵な方なので、ぜひ次作も主演していただきたいです。

『生きる』パク・ジョンボム監督Q&A
http://filmex.net/dailynews2014/2014/11/sanda-qa.html

『生きる』は、本日11/26(水)11時からもう一度上映されます。
posted by sakiko at 09:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月23日

東京フィルメックスが始まりました! 楽しみは、なんといってもQ&A (咲)

昨日、11月22日(土)より、第15回東京フィルメックスが始まりました。
オープニングには残念ながら行かなかったのですが、今日は朝から2本観て来ました。

『彼女のそばで』(イスラエル)
障がいを持つ妹ギャビーと暮らす女性シェリの物語。職場の男性といい関係になり、その男性は妹のことも承知の上で同棲を始めるが、やがて思わぬ事態に・・・
その事態の結果がまた思いもかけないもので、映画の展開が実に見事!
★11/25(火)21:15からTOHOシネマズ 日劇で、もう1回上映されます。
思いがけない展開をぜひご覧ください!
DSCF1319 kanojo.JPG
上映後、アサフ・コルマン監督とのQ&A。司会は林加奈子さん。
長らく多くの映画の編集に携わってきた監督。短編は手掛けたことがあるものの、長編に挑戦したいと、小さな部屋を借りて、彼女にも会わずに籠って脚本を書こうとするもアイディアが浮かばず。1ヵ月後に会った彼女から、自分自身の経験を映画にしてほしいと提案があって一緒に脚本を執筆。主演シェリも演じた彼女リロン・ベン・シュルシュとは、製作中に結婚。お子さまも生まれ、映画は二人目の子と、監督嬉しそうに語りました。
施設に預けてしまうこともできるのに、障害を持つ妹と暮らす姉。自分を犠牲にしても身内を大切に守りたい思いと、自分を発散させたい思いが交錯する様も丁寧に描いていました。
ギャビーを演じたダナ・イヴギのお父様は、昨年のフィルメックスで上映された『若さ』で父親役を演じたモーシェ・イヴギ。イスラエルを代表する名優です。
アサフ・コルマン監督のお父様もまた、俳優。一昨年のフィルメックスで最優秀作品賞となった『エピローグ』で父親役を演じていた方。
『彼女のそばで』は、フィルメックスと縁の深い映画なのでした。
posted by sakiko at 22:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月18日

神戸から帰った直後に観た『神戸在住』で、故郷の良さをしみじみ (咲)

11月7日〜10日の4日間、故郷・神戸に帰ってきました。
11日がシネジャ92号の最終編集日だったので、東京国際映画祭の原稿をなんとか6日までに必死になって書き終えて、心置きなく出発♪

実は、表紙や目次や最終点検と、ほんとはやらなければいけないこといっぱいあったのでした。白さんにどっと負担が・・・! すみません・・・・

今回の神戸は、前半が大学の同期会。
後半が小学校の同級生との集まりでした。

大学の同期は、東京から3人のほか、鹿児島、福岡、上田からも集まって総勢6人。
土曜日の2時に姫路駅集合で姫路城に行くというのがメイン。
DSCF0748 sirasagijo.JPG

真っ白に蘇った姫路城の天守閣は、内部の見学は来年3月までお預け。
でも、見学可能な場所だけでも、ふらふら。
夜は神戸に泊まって夜遅くまでおしゃべり。

土曜日の朝、京都に向かう大学の同級生を見送り、小学校5・6年時代のクラス会に気持を切り替えました。
担任の先生は亡くなられて30年になるのですが、一次会の前に10数名で奥様にご挨拶しにご自宅へ。
DSCF0832.JPG

尼崎市の伝統家屋に指定されている立派な邸宅で、在学中、生徒全員で遊びに行って3間続きの大きな和室で百人一首をした懐しいお宅です。
奥様に運良くお目にかかることができ、「こんな嬉しいことがあるなんて、生きていてよかった」とおっしゃってくださって、私たちも感無量でした。
ホテルに移動してのクラス会の席順は、百人一首の上の句を引いて、下の句を探すのですが、う・・・わからない。

クラス43人のうち、なんと21人集まりました。
素晴らしかった担任の先生の吸引力?
お天気がいいと「缶蹴り、行こか〜」と外に連れ出してくださったり、勉強に飽きているなと思うと、地図帳を開いて地名当てをしたりと、私たちに人生を楽しむ心の余裕を教えてくださった、ほんとに素敵な先生でした。

たっぷり旧交をあたためて、やっぱり故郷はいいなぁ〜と帰ってきた翌々日、『神戸在住』(白羽弥仁監督)を試写で拝見。
kobezaiju.jpg

阪神・淡路大震災から20年・・・。
震災後に生まれた女子大生たちの物語。
自分たちの知らない震災をふっとした時に感じる若い人たち・・・
ちょうど歩いてきたばかりのトアロードに旧居留地、北野の異人館・・・と、神戸の町の魅力がたっぷり織り込まれた作品。
DSCF0646 ijinkan.JPG

重要な場面で出てきたのが、この異人館の裏の小さな通り。
お気に入りの裏通りが出てきて、びっくり〜

映画『神戸在住』は、2015年1月17日(土)より全国順次公開
放送版ドラマは、2015年1月17日(土)サンテレビジョンにて20時00分放送  
公式サイト:http://www.is-field.com/kobe-zaiju/

DSCF1101.JPG

思えば、1995年1月17日の朝、テレビをつけた時に、目に飛び込んできたのは、生田神社がぺしゃんこになった姿でした。
DSCF0636 sinsai memorial.jpg

すっかり綺麗になった神戸ですが、いつまでも忘れないようにと港には当時のまま残された場所があります。
今回クラス会に集まった同級生の中には、家族を亡くしたり、家がつぶれて昔の写真をなくしたりした人も。いついつまでも、被災した人たちの心の傷が癒えることはないのだなぁとつくづく思いました。
posted by sakiko at 22:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々のできごと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする