27日に上映されたコンペ作品 『ディーブ』(ヨルダン、U.A.E.、カタール、UK)は、第一次大戦中のオスマン帝国支配下アラビア半島西部ヒジャーズ地方を舞台にした物語。まさに『アラビアのロレンス』の時代で、どんな描き方をしているのか興味津々でした。
遊牧民ベドウィンの少年ディーブ(狼という意味)が、英国人将校をヒジャーズ鉄道近くの井戸まで道案内していく兄を追い、合流した少年は足手まといの形になるのですが、やがて英国人将校も兄も何者かに殺されてしまいます。
兄が少年に「オスマントルコが鉄のロバ(ヒジャーズ鉄道)を作って、我々ベドウィンはメッカ巡礼の道案内や用心棒の仕事を失った」と語る場面があって、はっとしました。ディーブの一族は、巡礼の道案内をしている最後のベドウィンなのでした。
上映後、ナジ・アブヌワール監督とプロデューサー ナセル・カラジさんによるQ&A。
英国人将校のみがプロの俳優で、それ以外は、1990年代まで遊牧をしていた最後のベドウィンを配役。主役ディーブを演じた少年は、ベドウィン側の製作担当者の息子さん。「出資金を集める為のイメージボードを作る為に、ふさわしい少年を探して欲しいと依頼したら、あまり仕事をしない人でしたので、自分の息子を紹介されました」と監督。でも、輝くような存在だったのでそのまま主役に起用。心に秘めたものが目から伝わってくる少年でした。
あと印象に残ったのが、プロデューサーのナセル・カラジさんが語った「イギリスが歴史的に中東に大きな影響を与えてきたのも確かですが、オスマン帝国が社会の腐敗や分裂に与えた影響は大きく、その傷痕が今も残されていると思います」という言葉。アラブにとっては、英国もオスマントルコも恨めしい存在なのだと実感しました。
Q&Aでは『アラビアのロレンス』との関係を問う人がいなかったのですが、ロビーで観客にサインをしている際に尋ねた方がいました。「あの映画はもちろん素晴らしいと思いますが、ロレンスへの評価は別です」と監督。私も プロデューサーのナセル・カラジさんと個人的にお話し、「アラブにとってロレンスは決してヒーローではないですよね」と確認。「アラブが見たアラビアのロレンス」(スレイマン・ムーサ著, 翻訳: 牟田口義郎, 定森大治)を思い出した次第でした。
ロケをしたのは、『アラビアのロレンス』と同じワディ・ラムともう一つのワディ。(名前を失念しました)
1988年に訪れたことがあって、雄大な光景を懐かしく思い出しました。
「ディーブを演じた少年、俳優を目指しているのでしょうか?」と監督に伺ったら、「それはまだわからないですね」とのこと。 監督ご自身もとても素敵な方でした。