『ボーダレス ぼくの船の国境線』公開初日10月17日(土)新宿武蔵野館で11時半からの上映終了後、サヘル・ローズさんのトークイベントが行われました。
サヘルさんは、この映画の舞台となった国境近くの町で生まれ、幼少期にイラン・イラク戦争の折のイラクからの爆撃で家族全員を失いました。その後、育ての母に連れられて日本に移住。高校時代からテレビや映画で活躍されています。
MCはラジオ「すまいるFM」パーソナリティのデッキーさん。
トークの中から、印象的だったことをお届けします。
サヘル:出演している3人は、ペルシア語、アラビア語、英語と言葉は違うけど、ぶつかりあいながら、次第に心が通じていきます。最初、船の中にヒモで境界線を作ったのが、子どもたちはいつのまにかヒモで作った境をはずしています。国境があるからこそ出来た溝を、子ども目線で教えてくれる。
舞台はおそらくホッラムシャハルだと思います。去年、自分が生まれた町を訪れたのですが、川から観た風景にすごく似ています。イ・イ戦争の時に一番被害にあった場所で、廃船もいっぱい浮いています。川に、いつのまにか、誰かが国境線を引いて、向う側には兵士がいる。生まれた場所が違って、言葉が違うだけで、同じ人間なのに敵対している。なんのためのボーダーなのだろうかと思いました。
中東というと、いっしょくたにされますが、それぞれ人も文化も違います。小さい時に大人から教わった隣の国の人は怖いということをほんとうだと思い込んでしまったりしています。この映画では、アメリカ兵を悪者に描いてない。闘っているのは家族のため。闘いたくて、ここに来ているのじゃない。どこかで犠牲になっているのが人だと思います。
MC:お互いを知ることが大事ですね。言葉ですが、アラビア語はわかりますか?
サヘル:イランではアラビア語はコーランを詠むために学びますが、会話はわからない。
MC:侵入してきたのが女の子だと、撮影の時にも最初に教えなかったそうですが・・・
サヘル:女の子だと教えなかったのは、イランでは高校まで男女別で、大人になるまで家族や親戚じゃない異性としゃべることがないので、女の子とわかったらどう接していいかわからない。女の子だとわかった時に、男の子はほんとに自然に驚いて女の子として接しています。
(注:監督の説明では、侵入してくる少年を演じているのが実は女の子だと最初からわかっていると、女性は大切に扱うものという意識が働くので、知らせなかったとのことでした。)
MC:釣って売っていた魚は?
サヘル:ナマズだと思います。フライにしたり、中にお米を入れてオーブンで焼いたりします。北の方ではチョウザメの中のキャビアはお金持ちや外国に売りますが、チョウザメの白身は食べます。
MC:女の子が魚代として、イラクの1000ディナールを入れていますが、日本円で百円くらい。安すぎませんか?
サヘル:いえ、高いと思います。
MC:イラン映画というと、答えのないものが多いですね。この映画では、最初から言葉も説明も少ないですが・・・
サヘル:説明が少ない理由は、製作する時にまず国の検閲を受けないといけない。さらに、完成してからも検閲を通らないと映画を上映できないので、政治的なことをストレートに描くと公開できなかったりします。観ている人に伝えたいメッセージを、あえて表に出さないで隠しているのだと思います。
最後に:
今日は子どもがいらしていてすごく嬉しかったです。楽しめた? いくつ?
小さい子たちが、普通の家庭で育ってほしいし、犠牲になるのは大人だけではなく子どもだったりするので戦争を起こしてはいけない、肌の色も国籍も関係ない、ただ生きたいだけ、家族の元に帰りたい。銃ではなく愛を持てる環境に社会がなればいいと思います。それを訴えていくことが大事だと思います。今日、この映画をご覧になった方は、ぜひ、こういう映画があったんだよ、人に国境はない、人と人は繋がることができるんだよということを回りの人にお伝えいただければ嬉しいです。
明るく爽やかなサヘルさんですが、この映画をご覧になって、彼女の幼少期の記憶があるからこそ感じられたことが多々あることと思わせてくれるトークでした。