2015年11月30日

東京フィルメックス最終日  『戯夢人生』『念念』『タクシー』 いずれも再度観て、記憶の曖昧さを実感 (咲)


昨日は、東京フィルメックス最終日。
10:00からの『風櫃の少年』も観たかったのですが諦め、午後の『戯夢人生』(1993年)から拝見。
公開当時に観たので、もう20年以上前のことですが、人形芝居・布袋戯(台湾語でボテヒ)については強く印象に残っていました。あらためて観てみたら、 映画は人形使いの李天祿(リー・ティエンルー)さんを通して台湾の日本統治時代を描いたものでした。
盧溝橋事件から3年後に着任した長谷川総督が野外劇を禁止したため、10万人もの台湾の人たちが苦境に立たされたこと、日本兵として出征し戦死された台湾の方たちのこと、そして、疎開先でマラリアにかかって父親と息子を亡くされた李天祿さん・・・  台湾の人たちの人生に日本統治が大きな影響を与えていたことをずっしりと感じました。後に大陸からやってきた国民党の仕打ちがひどかった為に、日本には好意的な感情を抱いている台湾の方が多いと聞いていたのですが、充分恨まれることをしていたのだとしみじみ。

上映後、ホウ・シャオシェン監督が登壇。大陸からわたってきた両親のもと、1947年に生まれた監督にとって、日本統治時代を過ごしてきた李天祿さんに出会えたからこそ撮れた作品との言葉がありました。もちろん、脚本のお一人、呉念眞(ウー・ニエンジェンウー)さんが台湾の閩南語に長けていて、父親や祖父が日本統治時代を過ごしてきた方だということも助けになったといいます。
外省人であるホウ・シャオシェン監督が、『悲情城市』や『戯夢人生』のような映画を作ったことに、あらためて感銘を受けたひと時でした。
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司会:市山尚三さん、ホウ・シャオシェン監督、通訳:小坂史子さん
(重いカメラをやめて、コンパクトデジカメを持っていったら、ボケボケの写真しか撮れませんでした)

17:00 『念念』を再度拝見。27日に観たときに、時と場所が行ったり来たりして、ちょっと寝てしまったこともあって、消化不良だったのです。 もう一度観て、すっきり! とても素敵な作品です。ぜひ公開されるといいなと思います。

『念念』で朝日ホールでの上映は終了。すでにチラシも片付けられていて、あ〜終ったなぁと。
会場を出たところで、運よく林加奈子さん(東京フィルメックス・ディレクター)にお会いできました。「今年は中東関係が1本しかなくて、すみません。シミンちゃん(ファーテメ・モタメダリアさんのこと)の映画も観たんですけど、入れられなくて。でも、ショーレさん(ペルシア語通訳でお馴染みのゴルパリアンさん)はフィルメックスにはなくてはならない方なので、オープニングで英語通訳をしていただいて大活躍だったのですよ」とおっしゃってくださいました。 実は、今回、オープニングの日は、日本パキスタン協会主催のパキスタン・シンポジウムに行ってしまったのでした。ショーレさんが活躍された姿を見られなくて残念!

21:15から、TOHOシネマズ日劇で、いよいよ東京フィルメックス最後の上映作品『タクシー』。
22日に観ましたが、これはもう一度観たい! 
で、再度観てみたら、 29日のスタッフ日記に書いたことに誤りを発見!
「金魚の入った鉢を持って乗り込んでくるチャードル姿の女性二人」と書いたのですが、チャードルではなく、柄物のスカーフに茶系のコートでした。 実は黒のチャードルと思い込んでいたのです。
あと、タクシーを貸切にするのを「ケラーイェ」と書きましたが、「ダル・バスト(扉を閉める)」と乗客が言っていて、あ〜そうだったと。(訂正済みです・・・)
ほかにも、こんな場面あったっけ?というところも。記憶って、ほんとに曖昧。
そして、映画って、何度観ても新しい発見があるから楽しい。

『タクシー』で始まり、『タクシー』で終わった私の今年の東京フィルメックス。
ほんとに充実の8日間でした。 
東京フィルメックスの皆さんに感謝!
来年も楽しみにしています。
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2015年11月29日

東京フィルメックス  パナヒ監督が運転するのもありえるテヘランの『タクシー』事情 (咲)

今晩29日(日)21:15から、もう一度上映されるジャファル・パナヒ監督の『タクシー』は、監督自ら運転するタクシーに次々に乗ってくる客との会話で進んでいく物語。パナヒ監督らしく、ちょっと作りこみ過ぎた感はあるのですが、テヘランの乗り合いタクシーのシステムなら、充分ありえる展開です。どんな人たちが乗ってくるのかは、まだ今晩の上映があるので、それをご覧いただくことにして、ここでは、ちょっとテヘランのタクシーについて、システムの説明と私の経験を。

テヘランでは流しのタクシーは、基本、乗り合い。座席に空きがある車に向かって、行き先を叫んで乗せてもらいます。以前は助手席に2名乗車していましたが、今は助手席1名と規則が変わっています。後ろは定員3名。大型バスが前と後ろで男女別になっているのに、タクシーは男女が密着して座ることになります。最近は、女性運転手による女性専用タクシーも出現しているようです。
流しのタクシーは、通りをまっすぐ行くのが基本なので、違う方向に行きたい場合は、交差点で降りて、また別のタクシーをつかまえます。
それが面倒な場合は、「ダル・バスト(貸切)」にしてもらいます。映画の中でも、「貸切にしてくれ」と客に言われる場面があります。その場合は、行きたい場所まで行って貰えますが、もちろん料金は高くなります。値段は交渉次第。これで運転手とバトルすることもしばしば。
でも、乗り合いでちょっと乗るだけなら、「お代はいいですよ(ガーブル ナダーレ」と言われることも。もっとも、イランで買い物したりしても、決まり文句でそう言われるので、通常はちゃんと払います。私は外国人なので、「メヘマーネ・マー(私たちのお客様)」と、代金を取られなかったり、同乗していたほかのイランの方から「私が払うから」と言われたりしたこともあります。
初めてイランに行った1978年のこと(まだ王政の時代!)、イラン在住の先輩に連れられてタクシーに乗ったのですが、途中でタクシーを止めて助手席に乗ってきた男性が運転手と親しく話しているので、友人をちゃっかり乗せたのかと思ったら、初めて乗せた客でした。イランの人たちは、ほんとにおしゃべり好き。知らない人とも、すぐ親しげに話します。
タクシーの認可かどうなっているのか知らないのですが、運転手さんから「実は教師をしているけど、安月給なので」とか、「僕は大学生」とか言われたことも。
なので、映画を作れないでいるパナヒ監督が生活費稼ぎにタクシーの運転手をしているのもありえます。もっとも、身分がばれちゃったら、「映画のネタにね」と言えば、皆、納得ですよね。

パナヒ監督の運転するタクシーに乗ってくる人たちからは、これまで監督が作った映画を彷彿させられるエピソードがいっぱい。でも、これまでの作品を観ていない人にも、ちゃんと楽しめる作りになっています。
乗客をちょっとだけご紹介。赤い薔薇の花束を持って乗り込んでくる女性がいるのですが、本物の弁護士さんで、女性たちを擁護した罪で収監され、実際にハンストをされた有名な方だと、イランの友人が教えてくれました。

金魚の入った鉢を持って乗り込んでくるチャードル姿の女性二人が、「アリの泉に行ってちょうだい」と言います。(注:29日の夜、もう一度観てみたら、チャードルではなく、柄物のスカーフにコート姿でした)
アリの泉は、テヘランの南にあるレイという古い町にある泉で、そのまわりの岩肌に絨毯を干してあるのが有名なところ。
姪を学校に迎えに行かなくてはいけないからと、パナヒ監督は別のタクシーに彼女たちを乗り換えさせます。なにしろ、テヘランの南ですから、渋滞してなくても、恐らく1時間はかかるのでは。
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そして、その姪っ子のハナちゃん。小学生高学年かと思うのですが、学校で映画作りのワークショップをしているのです。思わず、9歳で映画を初めて作ったハナ・マフマルバフを思い起こしてしまいます。偶然同じハナちゃん。『タクシー』がベルリン映画祭で金熊賞を受賞しましたが、国外に出られないパナヒ監督に代って、ハナちゃんがトロフィーを受け取りました。こちらのハナちゃんも、女優として監督として将来有望で楽しみです。
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2015年11月28日

東京フィルメックス お気に入り『タルロ』のW受賞で授賞式は終わりましたが、明日もう一日頑張ります!(咲)

今年の東京フィルメックスは、中国映画が制しました!
私が一番気に入った『タルロ』が最優秀作品賞と学生審査員賞のW受賞!
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ペマ・ツェテン監督

モノ言わぬ人々の姿に圧倒された『ベヒモス』が審査員特別賞
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チャオ・リャン監督

そして観客賞も中国を舞台にしたピーター・チャン監督の『最愛の子』(中国、香港)。
そのほか、スペシャル・メンションを『白い光の闇』(スリランカ)と奥田庸介監督の『クズとブスとゲス』が受けました。

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記者会見の時の、和やかな雰囲気の記念撮影のひとこま

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授賞式後の記念撮影では、『ベヒモス』のチャオ・リャン監督が観客席を撮る姿が・・・

受賞結果の詳細はこちらで!
http://filmex.net/2015/program/competition

受賞式は終わりましたが、東京フィルメックスはまだあと明日1日あります!

11/29(日)10:00『風櫃の少年』上映後リチャード・サチェンスキ氏のトークに引き続き、ホウ・シャオシェン監督登壇。
11/29(日)13:20『戯夢人生』上映後Q&Aにホウ・シャオシェン監督登壇。
11/29(日)17:00 『念念』 残念ながらシルヴィア・チャン監督の登壇はありませんが、情感豊かな素敵な映画です。
11/29(日) 21:15 『タクシー』 パナヒ監督の運転するタクシーに乗ってみませんか〜

明日もう一日頑張りますので、詳細報告はまたの機会に!

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東京フィルメックス  『悲情城市』ホウ・シャオシェン監督、『念念』シルヴィア・チャン監督登壇の豪華な一日(咲)

東京フィルメックスも、あっという間に授賞式の日を迎えました。
コンペティション、どの作品が受賞するでしょうか・・・
そして、観客賞は?

さて、昨日27日(金)も充実のフィルメックスでした。

◆14時から台湾映画『悲情城市』
恐らく4〜5回観ていると思うのですが、何年ぶりだったのでしょう・・・
懐かしさと共に、戦前、基隆に住んでいた母のことを思い出して胸がいっぱいになりました。母と一緒に観たこともあるのですが、この映画で描かれている「2・28事件」のことを、台湾人の同級生から一度も聞いたことがなかったとびっくりしていました。母が台湾の親友から当時のことを聞かされたのは、『悲情城市』の作られた1989年から数年経った頃だったと思います。基隆の川が血で染まったことを親友はずっと語れないでいたと明かしたそうです。
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上映後にホウ・シャオシェン監督がにこやかに登壇。
会場から、「かつて観たときに、日本人親子が畳の上で台湾人に別れの挨拶をする場面があったと記憶しているのが今回なかったようですが」との質問があがりました。私にも印象深い場面だったのですが、今回寝ていて見過ごしたかなと思ったら、監督より「いくつか修正版を作ったときに、なくしてしまったかも」との説明がありました。日本人と台湾人の友好的な関係を感じられる場面だけに、カットされたのはちょっと残念です。
『悲情城市』は、それまで商業映画や監督自身の体験をもとにした映画を作っていた監督にとってターニングポイントとなった作品。それまで描かれなかった台湾の歴史に目を向けたもので、それは台湾の人たちや、世界の人たちにとっても貴重な宝。デジタル版は作成されておらず、ちょっと雨の降る傷だらけの35mmでの上映。 このことについて、監督は「DCPは化学的、フィルムは物理的なもの。どちらが信用できるかそれぞれ違う。DCP化が安全かどうかはわからない」と語りました。また、保存については、国が文化として保存したいと思うかどうかにかかってくるとも。

この度、フィルメックスのために緊急来日されたホウ・シャオシェン監督。
11/21に行なわれた台北金馬奨では監督作『黒衣の刺客』が作品賞を始め、最多となる5部門を受賞したばかり。多忙なスケジュールの合間を縫っての来日です。
29日(日)に上映される『風櫃(フンクイ)の少年』(DCP版)、『戯夢人生』(35mm)の上映後にも、また登壇されます。

11/29(日)10:00『風櫃の少年』上映後リチャード・サチェンスキ氏のトークに引き続き、登壇。
11/29(日)13:20『戯夢人生』上映後Q&A



◆18:20からも台湾を舞台にした『念念』(台湾・香港 2015年)
監督は、今回コンペティション審査員を務めているシルヴィア・チャン。
台東の沖に浮かぶ緑島。大都会に憧れる母親は娘メイを連れて島を出てしまう。メイの兄ナンは父親と共に緑島で暮らし続けていたが、成長し、やがて父親が心臓発作で急死。消息不明になってしまった妹を探しに台北にいく・・・  
兄妹の物語に、メイの恋人でオリンピックをめざすボクサーの物語も絡んで、3人の思いが情感豊かに描かれています。
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上映後、シルヴィア・チャン監督が登壇。上下青の颯爽としたパンツスタイル。
「蔭山征彦さんの脚本が自分の机の上にあったのは定めでした。読んで切なくて、男性の家族への思い、父母へのわだかまりに、一人の母として心を打たれました」と、この脚本を映画化するに至った思いを語りました。もともとの脚本では、舞台は台湾と北海道。あまりに遠いので、台東の離島・緑島に舞台を変えたそうです。かつてはいくつも監獄のあった島。今では監獄は一つ残されるのみで、ダイビングもできることから観光の島になりつつあるとのこと。補足の撮影は通常しないのに、今回は撮影が終ってからもう一度緑島を訪れて、島だけを撮ったほど気になる場所のようです。
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『念念』は、29日(日)17時よりもう一度上映されます。

(残念ながらシルヴィア・チャン監督の登壇はありません)

◆21:15からスリランカ映画『白い光の闇』
最初の医学生が医師免許を放棄して僧侶になったエピソードと、腎臓の売買をする男の話までは覚えているのですが、その後は、私自身が黒い闇の中に・・・・  さすがにレイトは無理でした。
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2015年11月26日

東京フィルメックス チベット族の孤独な男をユーモアたっぷりに描いた『タルロ』 (咲)

25日(水)11:20〜 中国映画『タルロ』
毛沢東語録の一節をよどみなく語り続ける男。
やがて、「名前は?」と聞かれ「三つ編み」と答える場面から、男はチベット族で、幼い時に親を亡くして以来、羊飼いとして暮らしてきたことが語られる。とにかく記憶力がすごい。羊の雄雌別や色別の頭数など細かく把握している。時々前ポケットに入れた子羊にミルクをあげる。母羊が狼に襲われてしまったのだという。
場所は警察署。なかなか申請しなかった身分証のために来たらしい。本名はタルロ。いつも三つ編みと呼ばれていて、自分のような気がしないと笑う。写真を撮る段になって、あまりの髪の汚さに向かいの理髪店に行って来いと言われる。そこで出会う理髪店の若い女性。今まで女性に縁のなかったタルロ。やがて、彼女とカラオケに行くことになる・・・

ユーモアたっぷりにチベット族のタルロの人生、そして恋の顛末が語られます。
モノクロ映像から、なんともいえない哀愁が漂います。
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上映後のQ&Aにペマ・ツェテン監督が登壇。
ある時、辮髪の男が頭に浮かび、そこから物語を作り上げたそうです。自分は何者であるかを探す男の物語。毛沢東語録を中国語で語るチベット族ということから、40代の特殊な時代を経てきた人物だということを示しています。
モノクロにしたことの理由をどの映画祭でも質問されるそうで、美学的にタルロという寂しい突出した人物をより強く表現できると思ったからと答えました。
理髪店に入ってからはすべて鏡に映る世界。逆さまの不確定で幻想的な世界。自分の暮らしている山の中と町の差でもあると解説されました。

『タルロ』は、今晩 11月26日 21:15より、もう一度上映されます。
お奨めの一作です。ぜひ!

『オールド・ドッグ』で第12回東京フィルメックスグランプリに輝いたペマ・ツェテン監督の最新作。監督の作品としては、『静かなるマニ石』が大好き。

監督来日にあわせ、下記の上映会の企画もあります!

★ペマ・ツェテン監督『五色の矢』上映会
監督の来日にあわせて『五色の矢』上映会が開催されます。
日本初上映、一日限り、上映後にはペマ監督も質疑応答のために登壇されます。

日時:2015年11月27日 (金) 18:00-20:30 (17:30開場)
場所:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所3階 303号室 (大会議室)
交通案内:http://www.tufs.ac.jp/access/tama.html
•申し込み不要、参加無料です。
•映画は英語・中国語字幕版による上映です。
◎主催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所「言語の動態と多様性プロジェクト」(LingDy2)  担当 星 (hoshi@aa.tufs.ac.jp)
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