2016年03月27日

講演会【トルコ国歌「独立行進曲」の背景】で、『ディバイナー 戦禍に光を求めて』で描かれた時代を知る (咲)

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3月26日(土)3時半から代々木上原の東京ジャーミィ(モスク)で開催された【トルコ国歌「独立行進曲」作詞者「メフメト・アーキフとその時代」講演会】に参加してきました。トルコ共和国ユヌス・エムレ インスティトゥート東京の主催。

2時過ぎに東京ジャーミィに着いたら、1階ホールはバスツアーのワッペンを付けた見学者でいっぱい。
サービスで置いてあった杏と石榴の生ジュースをいただいていたら、また別の団体が。
イスラーム過激派のテロや、ISISが「イスラム国」の名前で定着してしまったことなどからイメージの悪いイスラームですが、美しく静かな佇まいのモスクを体験して、“何かを”感じていただけるといいなと思います。

さて、講演会。講師は、日本大学文理学部史学科の粕谷元教授。ご専門はトルコ近現代史。
トルコ共和国国歌「独立行進曲(イスティクラール・マルシュ)」の出来た背景にある独立戦争について、写真を交えてわかりやすく解説してくださいました。

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帝国主義の流れの中で起こった第一次世界大戦。オスマン帝国も参戦したものの、兵士にとっては何の為に戦っているのかわからない戦争で、しかも敗戦。オスマン帝国分割プランで、領土は戦勝国各国に分割占領される。
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トルコに残されたのは、アナトリアの中央部の黒海寄りの部分だけ。(地図の白い部分)
抵抗運動が各地で起こり、それをまとめたのがムスタファ・ケマル。1920年5月、アンカラに大国民議会政府が設立される。
一方、1919年5月、ギリシャ軍はイズミルを中心とする地域はギリシャ文化圏であるとして侵攻。イタリアが占領するはずだった地だが、英仏はイタリアに占領される位ならギリシャにと。

ギリシャからイズミルを奪還すべく戦いが続く中、1921年3月、トルコ大国民議会は、メフメト・アーキフの詩を国歌「独立行進曲」に採択する。当初付けられた曲はあまり評判がよくなく、現在の曲は1930年に付けられたもの。
メフメト・アーキフは、お札や切手にもなっている国民的詩人で思想家。
文官のキャリアコースに在学中に、メドレセ(宗教学校)の教師をしていた父親が亡くなって家計が苦しくなり、生計を立てるため獣医学校に。家畜飼育指導員として各地を回り、人々の苦難な生活を目の当たりにし、後に政治活動に。オスマン帝国の思想界で重要な位置にあり、独立戦争では精神的指導者でもあった。トルコ共和国が一国主義の道を進む中、メフメト・アーキフはトルコという枠を超えた汎イスラームの連帯を考えていたことより、1923年にトルコ共和国成立後、1926年にエジプトに亡命。
1936年肝硬変で倒れ、トルコで死にたいと帰国。葬儀で「独立行進曲」が演奏される。国歌が葬儀で演奏された最初の人物となった。

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2月に公開された『ディバイナー 戦禍に光を求めて』(ラッセル・クロウ主演・初監督作品)の背景にかすかに描かれていたトルコ共和国独立への動きがよくわかる講演でした。
メフメト・アーキフの考えていた汎イスラーム主義で建国されていたならば、今のトルコはどうなっていたのだろう・・・と、ふっと考えてしまいました。

質疑応答の時には、『消えた声が、その名を呼ぶ』で描かれた1915年のアルメニア人虐殺についての質問があがりました。新国家は、すべてオスマン帝国のせいにして片付けているが、長い時間をかけて歴史学的研究が進みつつあり、今はトルコ側からも中立的な検証が行われているとのことでした。

充実の講演会に満たされた思いでジャーミィを後にしました。
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ジャーミィ脇にある木造2階建ての建物は、建て替える前のモスクのあった頃からの古い建物で、かつてトルコ人学校だったところ。トルコ語を教えていただいた亡き先生も学ばれた場所。この5月に解体建て替えが決まっていて、名残を惜しんできました。


◆独立行進曲(イスティクラール・マルシュ) ―トルコ共和国国歌―

10ある詩のうち、国歌として歌われている最初の二つの詩の訳をここに掲げておきます。
(トルコ語に堪能な友人が、このような詩の国歌を持つ国民がうらやましいと言っています。もとのトルコ語の詩は、もちろん韻を踏んでいます。)


恐れるな!暁にたなびくこの赤い旗は、決してなくなる事はない
消えることなく、我が祖国の上に煙たなびく最後の炉
それは我が民族の星、キラキラと輝く
それは我がもの、唯、我が民族のものなのだ
 
額を歪めるな、お前のために犠牲となろう、たなびく新月旗よ
勇敢なる我が民族に微笑め。何という激しさ、何という怒り
しかし、微笑まなければ、流れた我々の血がお前のものとならない
独立は、神を慕う我が民族の権利である


(訳)大熊真龍・林佳世子
http://www.tufs.ac.jp/common/fs/asw/tur/aboutTurkey/istiklal.html
posted by sakiko at 21:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々のできごと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする