今日は取材に行けず、ネットで授賞結果を確認しました。
こちら→http://filmex.net/2016/program/competition
重厚な作品を楽しんだ夢のような日々を振り返ってみたいと思います。
11月19日(土)21:30
『THE NET 網に囚われた男』映画は予定があって観られなかったのですが、上映後のキム・ギドク監督Q&Aへ。
満席の熱気溢れる会場に、髪の毛を後ろに束ねた監督が登場。
「憂鬱な映画をお見せして申し訳ない。これが南北の現実です」と開口一番。
う〜ん、やはり重い映画らしい。
暴力的なシーンの裏に語りたい真実があるとも。
前列左端の女性の方が、監督が登壇してから、ずっと手をあげていたのですが(私は彼女のすぐ後ろにいた)、ようやく指名され、震える声で監督に熱い熱い思いを語りました。
それに応えるキム・ギドク監督の声を聞きながら、会場を後にしてイランの巨匠モフセン・マフマルバフ監督の『ザーヤンデルードの夜』の上映へ。
『ザーヤンデルードの夜』は、1990年のファジル映画祭(於テヘラン)の折、検閲で25分削除されたものが上映された後、映画自体が上映禁止になりネガが没収されてしまった作品。ネガが見つかり、ロンドンで復元され、今年のヴェネチア映画祭クラシック部門でオープニング上映されました。幻の作品が東京でも観られる!と、感無量でした。
大学で人類学を教える父と、救急病棟で働く娘のたどる人生。イスラーム革命の前、革命、そして革命後。どんなところが当局のお気に召さなかったのかな〜と思いながら拝見。(もっとも、最初の検閲で削除された25分のフィルムはなし)
ザーヤンデルードは、古都エスファハーンを流れる川。古いハージュ橋の下が効果的に使われていました。救急病棟には、自殺未遂の人たちが次々と運ばれてきて、イスラームの教えで禁じている自殺が出てくるのも、映画が良しとされない理由の一つかなぁ〜と。
(この映画については、またゆっくり語りたいと思います。)
20日(日)休養日にするつもりでしたが、国際シンポジウム《アジアからの「映画の未来へ」》で、アミール・ナデリ監督が基調講演を行うとわかり、これは行かねば!と駆け付けました。

「公的な資金援助のある恵まれた国もあれば、そうでない国もあって、映画製作には資金の問題がつきものだけど、心があれば映画は作れる! そして、健康であること。脚本が何より大事、CUT!」と、熱弁を奮いました。

続いて、韓国、プサン映画祭エグゼクティブ・プログラマーのキム・ジソクさん(右端)からは、若手映画作家を効果的にサポートするシステムを次々に打ち出していることが語られ、韓国映画界が勢いのあるのも、こうした背景があるからこそとうらやましく思いました。
21日(月)
『神水の中のナイフ』
中国西北部の荒涼とした大地にたたずむ木造の素朴なモスク。葬列。妻を亡くした年老いた父に、40日目の追悼の儀式には牛を屠って振る舞えと進言する息子。金もなく、長年飼ってきた牛を屠るしかない・・・
回族(イスラーム教徒)の姿を丁寧に映しだした味わい深い作品でした。

ワン・シュエボー監督に代り、Q&Aにエグゼクティブ・プロデューサーのチャオ・イーハンさんが登壇。監督は漢民族ですが、大学同期の回族の方から紹介された原作に感銘を受けて製作。ロケ地である西海固付近の人たちをキャスティング。言葉少ない老人を演じたのは、実は陽気な方で、外国にも旅している積極的な方だとか。
22日(火)
『オリーブの山』
エルサレムのオリーブ山のユダヤ人墓地の中にある家で暮らすツヴィア。神学を教える夫は帰りも遅く、4人の子どもたちの世話でフラストレーションがたまっている。夜、気晴らしに墓地に出た彼女は、抱き合っている男女を見かけたことから、気持ちに変化が起きる・・・

すぐ向こうにイスラーム教の聖地、岩のドームが立つ神殿の丘を見晴らすオリーブ山。
若くて美しいヤエレ・カヤム監督が、景観や音にこだわって脚本を書いたことを語ってくれました。
朝に夕に聴こえてくるアザーン(イスラームの祈りを呼びかける声)や教会の鐘の音、鳥の声などが心地良く、そして、一面に広がるお墓が圧巻でした。(オリーブ山に行ったことがあるのですが、墓地は覚えてない!) 正統派ユダヤ教徒の暮らしぶりにも興味津々。
夫になかなか相手にして貰えないやるせない思いは、女性監督ならでは描けたものかなと。
パレスチナ人の墓堀り人との会話もあって、イスラエルの置かれている現状も見え隠れしました。
23日(水)
『よみがえりの樹』
中国陝西省の今はさびれた横穴式住居“ヤオトン”。亡くなった妻の霊が息子レイレイに宿って、結婚した時に両親が家の前に植えてくれた樹を安全なところに移してほしいという・・・

上映後のQ&Aにチャン・ハンイ監督が登壇。ロケ地は幼年期を過ごした故郷。何もすることのない冬に、よくおじいさんやおばあさんや村の人たちが怖い話をしてくれた中に輪廻転生の話が多かったそうです。おばあさんが亡くなり、あの世で別の姿になっていて、また巡り合えるのではという思いが慰みになり、それがこの映画の原点だそうです。
なんとも不思議な物語。★最優秀作品賞受賞!
トークイベント
「カトリエル・シホリが紐解く イスラエル映画の現在」

イスラエル・フィルム・ファンド エグゼクティブ・ディレクター カトリエル・シホリさんから、今や世界の映画祭で数々の賞を取るまでになったイスラエル映画の歩みが語られました。
1948年のイスラエル建国から1960年代初頭まで、映画の製作本数はわずか15本。1964年、『サラー・シャバティ氏』がアカデミー賞外国語映画賞ノミネートされたのを契機に、民間資金で多様なイスラエル映画がつくられるようになったが、1998年には国産映画の年間観客動員シェアは、わずか3%にまで落ち込む。イスラエル映画復興のために、カトリエル・シホリ氏はイスラエル・フィルム・ファンドに呼ばれる。映画製作支援にいろいろな方策を打ち出したことが語られました。助成の条件はとてもオープン。どんな映画も受け入れるとのこと。多様な映画作家が育った秘訣を知ることのできたトークでした。
最後にいくつかの作品の映像を見せてくださったのですが、2014年に大ヒットした全編アラビア語の映画の途中で、私は時間切れ。この作品、日本で上映されるといいのですが。
『ザーヤンデルードの夜』
再度観て、細かいところを確認。1回目に何を観ていたのやら・・・と、ため息。

上映後のQ&Aにマフマルバフ監督が登壇。まずは、「この映画を、長年イランの映画を日本に紹介する橋渡しをされてきたショーレ・ゴルパリアンさんに捧げます」とおっしゃって、ショーレさんは「私には通訳できません」と遠慮され、市山さんが代わりに日本語に訳されました。
イランの映画が毎年のように映画祭で上映されたり、その後、一般公開にこぎつけたりするのは、まさにショーレさんの存在があってこそと、私もほんとうに感謝です。
さて、監督からどんな部分が検閲で削除されたのかが明かされることと楽しみにしていたのですが、そのことよりも監督から語られたのは、もっと根本的なことでした。この映画を作ったのは、革命前、革命、そして革命後と、政府だけでなく人々の心も移り変わることを体験したことが原点になっているとのこと。それはイランだけでなく、ほかの国にも当てはまること。政治に一つ悪いところがあれば、文化に10の悪いところがあるとも。この映画を鏡にしてほしいという意図なのです。
会場からの質問も、「映画を通して人々は変わることができるでしょうか?」という高尚なものでした。「変えられると思いますが、人々を映画館に連れてくるのが難しい。一人で食事をするより、皆で食べたほうが美味しいように、映画も皆で映画館で観れば、気持ちが一緒になります」と監督。
「明日のイラン映画の父ナデリ監督の『山<モンテ>』の上映には、ぜひ友達を誘って観にきてください」と、ナデリ監督への尊敬の念も忘れずに語りました。
24日(木)
『恋物語』
上映後、登壇したイ・ヒョンジュ監督は、まだ学生さんのような雰囲気の方。
「平日の昼間にこんな小さな韓国の映画を観にきてくださって」と感無量のご様子。
韓国では、あまり歓迎されない女性同士の恋物語に挑戦。短編を作っていた頃から、人と人との関係を描く愛の物語を描きたいと思っていたそうです。美大の学生ユンジュと、バーでバイトするジスが、お互い惹かれあっていく姿が自然に描かれていました。また、二人の周りの人たちの愛の物語も同時進行。原題は『恋愛談』。

Q&A終了後、会場入口で写真を撮らせていただきました。
『山<モンテ>』
用事があって、この日、映画は観られなかったのですが、ナデリ監督と主演俳優のQ&Aになんとか滑り込みました。
会場からの質問の中で、最後に山が崩れる模様が細かく語られました。(私は翌日観るのに、最後を知ってしまいました! ま、それもまた良し)

ナデリ監督の映画の原点はどの映画も「不可能なものを可能にする」というイランの詩。
15年前に山の映画をと思い、アメリカ、日本、韓国でも探したけれどイメージに合わず、どこからか呼ばれているような気がして、やっとイタリアでここだという山に出会ったとのこと。脚本をつくり、キャスティングし、撮影を終えると、実は編集と音は東京の西荻の部屋に6か月籠って行ったそうです。
主演のアンドレア・サルトレッティさん、「会場に兄弟を見つけました」と!
はい、西島秀俊さんですね〜
25日(金)
『山<モンテ>』を拝見。凄い映画でした!

イタリアの俳優たちの彫刻のような美しさが、物語を際立たせていました。
ナデリ監督も会場でご覧になっていました。
大きなスクリーンでこそ、味わえる凄味。
特集上映 イスラエル映画の現在
『山のかなたに』
軍を退役してダイエット商品の販売を始めたダヴィドとその家族の物語。娘イファットはレバノン音楽が大好きで、アラブ人にも偏見を持っていないという設定なのが嬉しい。
なのですが、声をかけてくれたアラブ人青年がその後殺されるという展開は、まさにイスラエルの今を表わしていてつらいものがありました。最後は明るく終わるのですが・・・
『迷子の警察音楽隊』のエラン・コリリン監督の第3作。監督のQ&Aを聴きたかったのですが、時間的にQ&Aのない回で拝見。ちょっと残念。
特集上映 イスラエル映画の現在
『ティクン〜世界の修復』
超正統派ユダヤの神学生が、臨死状態から奇跡的に蘇生し、人が変わったように教義に反した行動をとる物語。

主人公の神学生を演じたアハロン・トライテルさんがQ&Aに登壇。
ご本人自身、15歳まで超正統派として神学を学び、その後、世俗的な生活に。監督は世俗派なので、アハロンさんが脚本の中で超正統派として不自然な部分を修正したそうです。イディッシュ語の監修も。
この映画、超正統派の人たちからどのような反応があったのか気になりますが、そも、超正統派の人たちは映画やテレビを観ないそうで、この映画も観て貰えないようです。
今回の東京フィルメックスで、3本のイスラエル映画が上映されましたが、『オリーブの山』では、ユダヤの戒律を守る正統派の家族の暮らしを垣間見ました。本作では、さらに厳しく戒律を守る超正統派の日常。
もう1本上映された『山のかなたに』では、世俗的なユダヤの家族が描かれていて、ユダヤといっても暮らしぶりが全く違うことを数日の間に比較することができたのは、興味深いことでした。
『ティクン〜世界の修復』に出演したアハロンさん自身、超正統派を離脱して世俗的な生活をするようになった時、違う惑星に来たような思いだったと語っていたのが印象的でした。