2016年11月05日

東京国際映画祭 インドの女性監督による二つの映画 『ブルカの中の口紅』『ファイナル・ラウンド』 (咲) 

今年の東京国際映画祭では、インド映画が2本上映されましたが、いずれも女性監督の作品でした。

*「アジアの未来」部門 国際交流基金アジアセンター特別賞
◆ブルカの中の口紅 
監督:アランクリター・シュリーワースタウ
2016年 インド

被ったブルカの中に口紅を万引きする女子大生。ブルカを脱ぎ捨てジーンズ姿で夜の町へ。彼女の夢はポップシンガー。そして白馬の王子様を待っている。
モールを建設するからと、立ち退きを迫られている古い市場の店を切り盛りする50代の未亡人。有毒ガス事故で亡くなった夫が遺した店を売るわけにはいかない。寂しさを紛らすため、息子の水泳の先生に身元を隠して電話で恋愛を楽しんでいる。
美容師の女性は親の薦める金持ちの男と婚約するが、しがない写真屋の男と出来ている。「ダイヤモンドをあげても石炭を選ぶのね」と母。
3人の子持ちの主婦。セールスウーマンとして頑張っている最中、夫の浮気を知ってしまう。「お前は女、ズボンを穿こうとするな」と浮気夫は仕事に励む妻に言い捨てる。

年齢も環境も違う4人の女性たちが、それぞれの自由と夢を求めてもがく姿を描いたのは、本作が長編2作目となるアランクリター・シュリーワースタウ監督。自分を信じて夢を追ってきた監督。現実から脱け出せない人たちに手を差しのべたくて本作を作ったと語りました。

舞台ボパールの町では、1984年に化学工場から有毒ガスが漏れ2万人前後の死者が出ている。50代の未亡人の夫はその犠牲者。
人口の約4割がイスラーム教徒。ブルカは、親族以外の男性に髪の毛や肌を見せないというイスラームの教えに沿って女性たちが被っているもの。女子大生の家は、ブルカを作って生計を立てている。 『ブルカの中の口紅』というタイトルに、束縛されている女性が自由を求めるイメージを感じて期待していたのですが、求める自由がちょっと下品で引いてしまいました。
ジーンズ禁止に抗議集会を開く場面なども出てくるし、意欲はわかりますが、もう少し知的な自由を求めてほしかったところ。インドで公開できるよう頑張っているとのことでしたが、公開して、果たして共感を得られるでしょうか

登壇した二人の女優さんは、演じた映画の中の女性たちとは違って、自分たちはかなり自由。インドでも、大都市と農村部では女性のおかれている状況も違うし、小さな村では同性の友達と話すこともできない人もいる。でも、今、インドは変格の時期を迎えていて、男性と女性が話し合っていける状況にもなっていると語りました。

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10/26 Q&A:左からプラビター・ボールタークル(女優)、アランクリター・シュリーワースタウ(監督/原作/脚本)、アハナー・クムラー(女優)


ワールドフォーカス
◆ファイナル・ラウンド
監督:スダー・コーングラー   2016年 インド

スダー・コーングラー監督は、南インドの社会派映画の巨匠マニラトナム監督のもとで助監督を6年間務めた女性。ぜひ観たいと思ったのですが、時間を調整結果、諦めた作品。
10月31日の夜11時近く、『私に構わないで』を観終わって出てきたら、真っ暗な六本木ヒルズのテラスのところに長蛇の列。インド映画好きの友人が並んでいて、『ファイナル・ラウンド』主演のR・マーダヴァンさんで、『きっと、うまくいく』のメガネのちょっとダサい感じのともだち役だった方と教えてくれました。
今回は、ボクシングのワールドチャンピオンをめざす17歳の少女を厳しく指導する鬼コーチ役。

1日、映画は観られなかったのですが、Q&Aを取材。

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R・マーダヴァン(左)と、シャシカーント・シヴァージー(プロデューサー)

上映されたのは、タミル語版でしたが、同時に製作したヒンディー語版もあるとのこと。インドではよくあることなのですが、別の言語の吹替え版を作るほか、評判がいいと別の言語でリメイクも行われます。この『ファイナル・ラウンド』は、最初から二つの言語のバージョンを同時進行で撮影。主役はそのままで、脇役をそれぞれの言語の出来る人に変えて同じ場面を撮るという形。
監督は演技経験のある女優にボクシングを習わせて主役にしようとしたけれど、ワールドチャンピオンを目指す位だから、実際のボクサーを選んだ方がいいと、マーダヴァンがキックボクサーであるリティカー・シンを見つけてきたとのこと。彼女はタミル語もヒンディー語も出来たので、ラッキーだったとマーダヴァン。

会場の女性から、マーダヴァンの詳しい経歴を述べた上での質問も飛び出しました。
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Q&A終了後のサイン会には、この日も多くのファンが並びました。笑顔で対応するマーダヴァンでした。

次の機会には、スダー・コーングラー監督にも是非お会いしたいものです。





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東京国際映画祭 人間の尊厳を問う『7分間』に息もつけない思い (咲)

無冠に終わりましたが、コンペの中でも固唾をのんで見守った力作を紹介します。
人間の尊厳を守った女性たちの姿が眩しい作品でした。

コンペティション
◆7分間  
監督:ミケーレ・プラチド監督  2016年 イタリア=フランス=スイス

フランス資本に買収されたイタリアの繊維工場。休憩時間を7分短縮する条件をのめば、全員引き続き雇用するという。討議する労働者の代表11名の女性たち。10名は即賛成するが、リーダー各の女性が異議を唱え激論となる。まさに『12人の怒れる男』(57)を思い起こさせる展開。アルバニアの女性などもいて、移民問題に揺れるヨーロッパの現状も。

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26日の記者会見には、リーダーを演じたオッタヴィア・ピッコロさん(左)と、激しい気性の女性を演じたアンブラ・アンジョリーニさんが登壇。
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オッタヴィアさんは舞台劇の経験も長く存在感たっぷり。
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素のアンブラさんは可憐な方でした。ほかの出演者の中には歌手の方も複数。「私は歌手ではないので、映画の仕事がなかったら失業してしまいます」とアンプラさん。

さて、映画は、たかが7分、されど7分の休憩時間短縮を巡る物語。かつて60分あった休憩時間がどんどん短縮されて、今は15分という言葉がありました。さらに7分短くなれば、休憩時間はわずか8分! そこまで人を酷使して利益を出そうとするなんて・・・

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東京国際映画祭 最優秀監督賞はクロアチアの可憐なハナ・ユシッチ監督(『私に構わないで』)(咲)

★最優秀監督賞 ハナ・ユシッチ監督
『私に構わないで』
2016年 クロアチア, デンマーク)

狭い部屋で父母や障がいのある兄と重なり合うように暮らしているマリヤナ。父が倒れ、病院で検査技師をしている彼女が一家を背負うことになる。仕事場でも人付き合いのいいほうではないが、うっぷん晴らしに、3人の男に誘われるまま海辺で夜を過ごす・・・

母親が「誰が育てたと思ってる?」などと意地悪くマリヤナに接するので、継母かと思ったら実の母。父親も強権的。こんな家族と暮らしていたら屈折してしまうと、いらいら。
監督の故郷でもあるクロアチアの海辺の町シブニクは、ほんとうに絵に描いたように美しいところ。30年程前にクロアチアの海岸線を旅したことがあって、景色を期待していたら、風光明媚な部分は封印しての撮影。ヒロインの心情を描くためとはいえ、ちょっと残念でした。
最後には、家族と暮らすことを選ぶのですが、あまり好きになれなかった作品。
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でも、記者会見(10/31)に登壇した可憐なハナ・ユシッチ監督(左)には、すっかり魅了されました。初長編作品で、生まれた町に住む人たちを見ながら長い期間をかけて構想を練り、いろいろなものを詰め込んだと語りました。
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屈折したヒロインを演じたミア・ペトリチェヴィッチさんは、本職建築家。
「あまり人と仲良くできないのに、カリスマ性のあるヒロインを求めて、クロアチアやセルビアで探していましたが、イメージに合う人がなかなか見つかりませんでした。ある時、海辺でミアを見かけて、気になって声をかけました。全く演技経験はなかったのですが、引き受けてくれました」と監督。
ミアさんも「声をかけられて、いいんじゃないと思いました。建築家として自分の表現はあるのですが、自分の中に女優として表現したいものも眠っていたと思います」と、出演できた喜びを語りました。
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東京国際映画祭 香港の名優フランシス・ンが脱皮して7変化!? 『シェッド・スキン・パパ』にほろり   (咲)

東京国際映画祭会期中に、できるだけ書くつもりでいたのに、朝早く出かけ、帰宅は午前様という怒涛の毎日で挫折してしまいました。忘れないうちに、お気に入りの作品や女性監督の作品を紹介します。

コンペティション
◆シェッド・スキン・パパ   
監督:ロイ・シートウ 2016年 中国=香港

まずは、今回の映画祭で一番楽しみにしていた『シェッド・スキン・パパ』から!
名優フランシス・ン(ン・ジャンユー)演じる父親が脱皮して、どんどん若くなる!?  これはもう、笑えるに違いない!と、ワクワク。

さて、映画は・・・
ルイス・クー演じる挫折した映画監督。母親を亡くし、妻からは離婚を突きつけられ、借金も抱えている。そんな折、認知症の父親が脱皮してどんどん若くなっていく・・・
原題『脫皮爸爸』がしっくりきます。
80代の老いた父親は、これ、ほんとにフラさま?(フランシス・ンのことです)と疑うほど、認知症の爺さんに成りきっています。脱皮して、3度目、実年齢に近づいてくると、確かにフラさま! さらに脱皮して、息子よりも若くなってしまう父親。七変化ならぬ6つの年代を見せてくれます。抜け殻に命が吹き込まれて、6世代が一緒に食事するシーンは圧巻。
父親がどんな姿になっても、父として接する息子の姿にじ〜んとさせられました。

記者会見には、原作「ぬけがら」の著者、佃 典彦氏も登壇。「佃氏がいなければ、この映画はなかった」とロイ・シートウ監督。佃氏も、「信じられない気持ちでいっぱい。3つ違いの監督は血は繋がってないけどブラザー」と固く握手。
映画監督である主人公の部屋には、『野良犬』『自転車泥棒』『ゴッド・ファーザー』のポスター。ロイ・シートウ監督自身の好み。特に、親子の情を描いた『自転車泥棒』は、この映画にも繋がるものがあります。

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左から、佃 典彦(原作/脚本)、ロイ・シートウ(監督/脚本)、フランシス・ン、フランシスの息子さん、ルイス・クー、ジャッキー・チョイ、ジェシー・リー

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監督の「父親役はフランシス・ンしかありえない」という言葉を受けて、「監督が知っている俳優の数が少ないんです。もっと付き合いを広げればいい人がいると思います」と謙遜するフランシス。

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ルイス・クーは、「それほど年齢の変わらないジャンユーの息子役と聞いてびっくり。配役が決まって、ジャンユーが僕の父と一緒にご飯を食べたいと我が家にやってきました。僕と父の関係を観察していったのですが、80代のパートでは僕の父にだんだん似てきました」と語りました。
さらに、「一番難しかったのは、脱皮して息子と同じ年代になった時。見た目は同年代でも、あくまで父親ですから」とルイス。

離婚を突きつける妻役のジェシー・リーと、母親の若い時代を演じたジャッキー・チョイの二人は、口をそろえて、名監督、そして、名優の二人と仕事が出来た喜びを語りました。
ジェシー・リーは、「私だったら、ルイスと離婚するなんて、絶対言いません」とも。

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ルイス演じる映画監督の少年時代を、フランシス・ンの実の息子さんが演じていて、夜遅い舞台挨拶にも一緒に登壇。眠たそうな息子をあやすパパの姿が微笑ましかったです。(こちらの写真は、26日夜の上映後で、23:30頃!)
posted by sakiko at 12:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする