「2020年東京オリンピックに向けて女性スポーツの歴史とこれからの活躍推進を考える」
11月15日、日比谷図書館文化館大ホールにて
上映前にはアメリカから来日したユリコ・ガモウ・ロマー監督が舞台挨拶。
福田敬子さんと知り合ったきっかけや人柄、製作の秘話を披露しました。
『福田敬子〜女子柔道のパイオニア』
世界に柔道を普及させることに尽力した女性柔道家・福田敬子の生涯を記録したドキュメンタリー。1913年、東京で生まれた福田敬子は、21歳(1935年)の時、講道館柔道の創始者嘉納治五郎の薦めで講道館女子部に入門。男子柔道が正式種目になった1964年の東京オリンピックでは、エキシビションで柔道の型を披露。1966年、52歳で柔道の国際的普及のために渡米。80歳を過ぎるまで世界各地で柔道の普及のため尽力。様々な苦難に遭いながらも柔道とともに歩んだ生涯を描いている。2013年に、99歳で亡くなるまで、柔道の心を説き続けた。
詳細 シネマジャーナルHP 作品紹介
http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/444602031.html
上映後、全日本柔道連盟副会長の山下泰裕さんが舞台挨拶され、「この映画を観て、重い宿題をいただいたと思っています。一生懸命頑張った女性柔道家、柔道大好きな女子柔道家が選手生活が終わっても様々な分野で活躍できるように、連盟としても覚悟をもって模索しなければいけないと強く思った。これから2020年のオリンピックに向けて頑張っている女性もたくさんいますので、その女性たちが、その後も男性と同じように柔道界の中で、様々な分野で活躍できるようにともに、柔道が発展していくように頑張っていきたいと思います。ぜひたくさんの方に観てほしい」と感想を語っていた。
上映後トーク
岩田喜美枝さん(21世紀職業財団会長)と宮嶋泰子さん(テレビ朝日スポーツコメンテーター)が登壇。司会は元キネマ旬報編集長 関口裕子さん
関口裕子さん
これからのスポーツ選手、あるいは社会に出ていく女性のために話をしていただきます。
岩田喜美枝さん
映画の感想を3つほど
印象に残ったのは柔道を取るか結婚を取るかの選択の時に「私は柔道を取った」と語っていた時に涙ぐんでいました。もちろん柔道を取ったことに後悔はされていなかったと思いますが、失ったものに対する悲しさはあったと思います。日本では、今日でも仕事を取るか家庭を取るかの2者択一の問題はなくなっていないとは思いますが、福田先生の時代よりは、その意志があれば、苦労は多くてもなんとか両立できなくはないという風になったと思います。でも福田先生の時代にはそういうことは厳しい時代だったということが印象に残りました。
2番目としては、知識としての女子柔道の歴史をわかりやすく描いていたので、私も理解しました。最初は護身術から始まったということ。最初は試合をさせてもらえずに型だけだったこととか、昇段する時に福田さんは5段で30数年間足止めをくって、男性と同じようには昇段できなかったということを知りました。
3番目は、福田先生の言葉で柔道の本質というのがわかった気がします。柔道というのは良い人間になるということになんだということを語っていて、「強く、優しく、美しく」というのが柔道の求めるもの。柔道の精神的なもの本質的なことを語っていたと思います。
関口さん
女性柔道家の映画ではありますが、社会での在り方について人間として生きるということが語られていたと思います。当時、仕事として柔道を続けるなら、アメリカに行かざるを得なかったということ。そういう選択をせざるを得なかったこと、どういう風に人生設計をしていくということについてなどを語っていただければと思います。
岩田さん
人はやりたいことというのはいくつもあると思いますが、福田先生の時代には制約の大きさがあったと思います。今は、選ぼうと思えば両立できると思います。生涯柔道をやりながら、家庭を持ったり子育てしながらもできると思います。マルチに考えたらいいかと思います。
宮嶋さん
リオデジャネイロオリンピックでブラジルに初めての金メダルをもたらした女子柔道57キロ級のラファエラ・シルバ(24)は、生まれ育った貧民街(ファベーラ)で、日本人コーチの藤井裕子さんが柔道を教えています。藤井さんが柔道を教えるためにブラジルへ行く決心をした時、夫は「そんな機会は2度とない」と仕事をやめ、一緒にブラジルに行ったそうです。その決断がすごいじゃないですが。藤井さんのお母さんが柔道家だったということも関係しているかと思いますが、そういうことは希有なことです。女性が活躍するためには、子供を産んだ後のカムバック、柔道を続けられるため、キャリーアップのための道作りが必要。
岩田さん
女性が活躍するというのは、柔道だけでなく社会でも同じです。何が実現できたら活躍できているといえるかというと、続けられるということだと思います。結婚、出産、育児、配偶者の転勤、親の介護など、やりたいことが続けられないということがあると思います。ただ、続けるということと活躍するということの間にはギャップがあると思います。キャリアアップということも必要かと思います。企業でもそうですが、柔道でも同じだなと思いました。男性の方は選手を引退した後、指導者になったり審判員になったりと、生涯柔道と関わっていく方も多いと思いますが、女性の方は少ないですね。日本の女子柔道選手の割合は15%、さらにかかわり続けている人というと5%という状況。女子ナショナルチームでさえ男性指導者という状況です。実力のある女性選手が女子チームの監督になるという時代に早くなってほしいと思います。
不祥事があったこともあり、全日本柔道連盟では、理事とか評議委員とか専門委員とかに意識的に女性を入れていて22%になっています。ただ、地方レベルではまだまだの状態です。去年から女子柔道振興特別委員会というのを作っていただいて、私も顧問として参画しているのですが、これをきっかけとして女性が活躍できる柔道界であってほしい。
また、女性個人の心構えとか努力の問題もあるように思います。柔道と自分の人生設計を考えられるような情報を提供したりキャリア教育も必要かと思います。活躍している女性はどこかにいます。ロールモデルから気づいてほしい。そういう方と出会うためにもネットワークを作るとか、ちょっとの努力が必要かと思います。
自分ひとりではできないので、夫や家族に協力を働きかけ、子育てで中断した後も続けられるよう理解してもらいトライできたらと思います。まわりが環境整備することも必要ですが、自分から働きかけることもやっていただきたいと思います。
女性は選手と活躍した後、それで終わりということになっていましたから、指導者とか審判員としての活躍の場をどうやって増やすかということについても努力しないといけないと思います。指導員や審判員は資格が要りますが、女性が出産育児などで中断した後、復帰をするということが前提になっていない。そういうところも見直してほしいと思います。
残念なことに、セクシャルハラスメントとかパワーハラスメントというのは指導者と指導されるものという力関係の中でどうしても生まれてしまうので、撲滅するということはできないと思います。それをいかにして未然に防いで、小さいうちに解決するというのが必要だと思います。それは柔道界だけでなく社会で同じです。
現状では、県の団体では少なくても女性の役員、委員を一人以上入れなさいとかガイドラインとか作るといいと思います。国際的にはIOCでも2005年までに20%は女性委員を入れなさいという方針だったのですが…。日本政府全体が、全ての分野で指導的な地位にしめる女性の比率を30%にしようという目標をかかげていますので、全柔連としてもガイドラインを示して、女性が物事を決定するプロセスに入るという、そのことが女性が活躍しやすいスポーツ界に変えていく出発点になるかと思います。
宮嶋さん
ただ、ここでネックになるのは「女の敵は女だ」ということですよね。
今回、女性が監督になるかなと期待されたこともあるんですが、日本の女性の中に「私はけっこうとかまだ早い」と辞退してしまったりという風に、日本の女性の中にある。チャンスだからやってみればと言ってみても、自分から辞退してしまうというのが女性の中にあるというのが否めないのかなと思います。
岩田さん
おっしゃるとおりで、企業の中でも上司はこの人を鍛えたい、この人ならできると思うから「これやってみないか」と言っているのに、自信がない。男性で断る人見たことないですよ。この人ほんとにやれるのかしらと思うような人でもやりますっていうんですよ。自己肯定感が低いんですよ。
国連に女性の活躍を応援する機関があって、私もそれに関わっています。女性とスポーツというイベントをやったんです。トップは南ア連峰の副大統領だったヌクカさんがこのように言っています。
「スポーツには魔法の力がある。スポーツを通じて女性に自信を持つことができる(強くなれる)、仕事とか社会で活躍するための能力を養うことができる。たとえばチームワークとか、精神力、健康をコントロールする力とか大事な能力を与えてくれる。また、スポーツで経済的な収入を得られる人もいる。ただし男性と女性では全然額が違うが、そこはまだまだ問題だということもおっしゃっています。
関口さん
スポーツの効能について、宮嶋さんはどういう風に思っていますか?
宮嶋さん
今の日本の社会のありようとスポーツ界のありようは同じだなと思います。日本のスポーツ界の変化は日本の社会の変化と同時に動き始めていくと思います。
TV局でスポーツコメンテーターをしていますが、それ以外に、NPOで女性スポーツ勉強会というのもやっています。女性スポーツでも、コーチが男性であることが多いせいか、女性の体のことがわかっていないということが多いなと感じでいます。今の女性スポーツ選手というのは婦人科医とか女性の目がないと、とてもやっていけないくらいぎりぎりのところで闘っている現状があるんですね。さっき、ポジションの高い女性が必要という話をしていましたが、それとは別に、女性でないとできない母親の目というのが必要なんですよ。それが、重要なポイントだと思います。過度のトレーニングは女性の体をだめにするという感覚が男性にはない。そこを見る目が必要。
映画の話に戻ると、福田先生が指導していた時代。日本で教えるということが思うようにいかなかった時代だったから、それだったら職業を成立するのは海外だったから、それだったらばとアメリカに行ったのではないでしょうか。
関口さん
永住権を得るときに素晴らしいなと思ったのは、警察に入ったばかりの女性に教えていた時に、自分の必要性を高めていって、彼女たちからここにいて教えてほしいという推薦をもらったということがありましたね。それは、やはり男性が指導するのとは違って女性がケアをしてくれるという安心感というのがあったのではないかと思います。
宮嶋さん
私もそう思います。やはり男性とは違う指導を必要としていたんだと思います。
関口さん
柔道というのは、力でせめるのではなく優しさだと言っていましたが、弱点を取り込んでいくというのがありましたね。
宮嶋さん
柔道の練習というのは過酷です。一緒に組んで練習する相手もわかっているから、終わってからお互いにありがとうねという思いが、最後の「礼」に込められているかと思います。相手のことを思う気持ちが伝わってきます。
関口さん
相手のことを思う。福田先生の言葉でそのように語っていましたが、女性の生き方とスポーツということを考えさせられる作品でした。
宮嶋さん
この映画を観ると、いかに今の時代、恵まれた環境にいるかというのがわかると思うんですよ。この恵まれた環境を生かしていかないといけないなと思います。それを少しでも生かしていかないといくようにしなければいけないなと思います。そして、次の人にバトンタッチするときにはさらにいい環境にしていかなくてはならないなと思います。その役割が皆さん一人一人の役割だと思うので、「いいですよ。私は」と言わないで、もしもチャンスがあったら、一歩を踏み出していただきたいと思います。福田先生がいらしたから、今の日本柔道があったと思います。みなさんも次に控えた人に繋げていきましょう。
2016年12月3日アップリンク渋谷にて公開
http://www.pan-dora.co.jp/?p=3535