〜ボクらの青春時代-傑作台湾青春映画によせて〜
12月9日、『私の少女時代-OUR TIMES-』の上映後、映画評論家松崎健夫さん、映画解説者中井圭さん(司会)、『桐島、部活やめるってよ』宮部実果役の女優清水くるみさんが登壇して「ボクらの⻘春時代-傑作台湾⻘春映画によせて-」と題してトークショーが開催されました。そのレポートを。
90年代台湾を舞台にした青春ラブストーリー『私の少女時代-OUR TIMES-』。
イケメン男子に片思いしている平凡な女子高生、林真心。彼が学校のマドンナと付き合っていると勘違いして、マドンナのことを好きな学校一のワル徐太宇と組み、二人を別れさせる作戦に出る。80年代後半〜90年代に学生時代を送った台湾の30代、40代の女性たちの青春の甘酸っぱい記憶と成長を描いた。香港や日本の芸能が台湾の学生たちにも広がっていた状況が描かれ、香港映画ファン、特に劉徳華(アンディ・ラウ)ファンにとっては笑えるエピソードがいっぱい。アンディ映画のパロディシーンが出てきたり、真心の部屋はアンディの写真やグッズだらけ(笑)。最後には本物のアンディ・ラウやジェリー・イェンも登場。
シネマジャーナルHP 作品紹介
http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/444370560.html
トークショー
登壇者 清水くるみ/松崎健夫/中井圭
*「あの頃映画」の数々
『サニー 永遠の仲間たち』『建築学概論』『あの頃、君を追いかけた』に続く恋物語『私の少女時代-OUR TIMES-』。「あの頃映画」といわれるジャンルについて語っていただきました。
中井圭(司会) 映画いかがでしたか? (会場 拍手)
アジアの青春映画が大好きというくるみちゃんはどういうところが気に入ったんですか?
清水くるみ 台湾映画の「かなわなかった恋が輝かしい」みたいな描き方が本当に好き。日本の青春ラブストーリーって、そういうのがないなとも思います。水風船のシーンとかめっちゃくちゃ好きです。水風船を買って、大学の友人に「お湯風船やろ」と誘ったけど、却下されました(笑)
松崎健夫 台湾の最近の青春映画でいいものって『あの頃君を追いかけた』がありますが、今年は『若葉のころ』がありましたね。あれがすごく好きなんですが、韓国の『建築学概論』もそうですが、アジアの傑作青春映画って共通項があって、「大人の視点からかつての自分を見ている」というものが多くないですか。青春映画だと若い人に向けているというのが多数だけど、最近傑作と呼ばれて日本に入ってくる青春映画は「大人の視点から過去を見ているものがあるので、若い人だけでなく大人が見てもキュンキュンするものがある感じがしています。
中井 日本の青春映画との違いとか感じますか?
清水 『桐島』とかは、あまりラブに寄せてない。でもあれはあれで、現場はすごく青春ぽかった。私は女子高出身なので、「こういうのも、ああいいなあ」って思います。私は『桐島〜』のメンバーと水風船とかもやったことあるんです。そういうのを思い出して懐かしいなと思いました。
松崎 『桐島〜』も原作は若者視点で書いていますが、でも吉田大八監督の視点が大きいなと思います。あの映画の中で、最後、東出昌大さんが「映画監督になるっ」て言って、「いやあ、映画監督なんてなれないよ」ていうじゃない。あれって原作にはなくて大人側の視点で、もっと夢を語っていいのに、ちょっと達観したものが入ることによって、高校生活の話だけど、わかるという部分があるのが『桐島』だった気がする。だから、こういう作品群に関連しているなという気がするんです。
中井 まさにそう部分はあって、『あの頃君を追いかけた』は90年代と現代、『若葉のころ』は80年代と現代、『私の少女時代-OUR TIMES-』も90年代と現代という風に、別の視点が入ることによって本質的な光りを放つと。青春時代の最中にいると青春の輝きというか、真っ只中にいると眩しすぎて見えてないことが多いんだけど、10年もすると「あの頃、良かったな」気持ちになるんですよね。「もう帰ってこない青春の輝き」という視点が映画の中に入っているかどうかが非常に重要なんですよ。同時代のものを同時代の形で写しこむというよりは、同時代ではなく「かつて輝いていたもの」という視点で、映画全体をとらえているということが青春映画の要件として重要だと思います。
台湾に関していうと、そもそも80年代後半くらいまでは戒厳令がひかれていたんですよ。90年代半ばくらいに一党独裁が変わったから、自由な作品が出てきたといのがあります。80年代はその影が色濃い。韓国映画も80年代の青春を描いている『サニー 永遠の仲間たち』とかみたいのだと、暴動とかも描かれていましたよね。
*台湾の文化とアンディ・ラウ
清水 台湾の独特な文化もすごく面白かったですね。でもアジアだからですかね、すんなり入ってきました。日本の文化の影響も入っているのも面白いなと思いました。
中井 ケロッピーとかも写っていましたよね。台湾の作品って、日本の文化が好きというのもあって、日本由来のものがけっこう出てきて、僕らとしても違和感なく観ることができるというのがありますよね。
松崎 『藍色夏恋』の中に、好きな人の名前をボールペンのインクが無くなるまで書くと、「恋が成就する」というのがあって、失恋してしまった主人公の友達はずっと「チャン・シーハオ」って書いていたのに、途中から「木村拓哉」って書きだすんですよ。その名前を書いて誰かわかるっていうことじゃないですか。
この映画の中では日本ではなく、香港ですが「アンディ・ラウ」のことが出てきて、最後本人も出てきますけど、当時、台湾ではどういうポジションにいたのかな。青春スターっぽいポジションで描かれていますが、アンディ・ラウって日本はそこまでではないんです。日本ではもう少し年いってから知られるようになったので、こういとらわれ方していたんだなというのが面白かったです。歌とかまでは知らなかった。
中井 アンディ・ラウって香港映画をたくさん観ているし、アンディ・ラウがいろいろな映画に出ていて人気があるのは知ってはいたし、インタビューもしたことがあるのですが貴重な感じでした。
松崎 昔、四天王と言われていた時ありますね。
中井 そうですね。アジア圏でめちゃくちゃ人気があるんですが、日本ではそこまでじゃないから、台湾での受け入れ方というのと、僕ら日本人が「ああ、アンディ・ラウが出ているな」と観ている感覚と、全然印象が違うんだろうなとも思いますね。
清水 へえ〜。そうなんだ。
中井 この映画でいうと、時間軸が20年とかたっているじゃですか。その長い期間スターであるという、不動の人気が保たれているということを考えると、アンディ・ラウというのはそういう位置づけなんだなって思います。この映画の製作にも入っていますし。そういう協力の仕方というのもあるのかなと思います。
*切ない映画が好き
中井 他に好きなシーンとか、共感したポイントとかありますか。
清水 恋がかなわない、切ないのが好きです。
中井 切ないのが好きないのが好きなの?(笑)恋がかなうというより、かなわない系が好き?
清水 切ないの好きです。恋がかなわない男の子とかに「頑張れ!」ってやりたくなります。
中井 かなわない感のほうが残るという感じなんですね。僕は、恋なんて始まったら終わると思っていている人間だし、始まらなかったら終わらないみたいなものに、キュンとする(笑)。100の恋があったとして、上手くいくケースは1か0しかない。失恋を描いている方が人は共感できるんじゃないですかね。
清水 女の子って追いかけてるのが好きじゃないですか。追いかけてて、振り向いたら、もうツマラナイなというの多くないですか?
中井 そうなんですか?
清水 追いかけている時って楽しくないですか。振り向いてくれなくて切なくて
切なくて苦しい、でも振り向いてほしい!みたいなときが一番楽しい時で、女子トークが弾むときですね
中井 昔、CHAGE and ASKAのチャゲさんがマルチマックスというソロでやっているユニットを組んでいたんですが、その曲の中に「Mr.Jの悲劇は岩より重い」というのがあるんですが、その歌詞に「男は1時間後、女は1年後考えている」という歌詞があったんですね。今の「付き合うまでがピーク」という話を聞きながら思うのは、男性と女性では装置が違うんだなと思ったのは、男性は「付き合ってからピークが来るんじゃないか」と思っている節があるんだろうなて思いました。
松崎 そういう意味では、今回の作品『私の少女時代-OUR TIMES-』は「あの頃映画」の中は、珍しくハッピーになるかもしれないというラストになっていたんじゃないかな。
清水 そうですね。
中井 『私の少女時代-OUR TIMES-』は、ハッピーになるかもしれないと予期させるような終わり方をしていて、特殊かもしれませんね。
松崎 時代がそれだけ飛んでも「想い続けていた」っていうこと自体も、他の作品とも違うのかなと思いますね。それによって思い出して、過去を振り返るという作品が多い中で、これはお互いずっと想っていたということが違うかも知れませんね。そこがぐっとくるところかもしれませんね。
*輝いていた青春時代と現実
中井 10代、20代の頃に思っていた未来と違う現実になっていて、現実の厳しさというのがあるから、「あの頃夢見ていたものになっていない」こうじゃないはずだったのにという状況から、あの頃を振り返るから青春が輝いて見えて、自分の感覚を取り戻していく話だと思うんです。頭に、社会人の姿を見せることによって、かなわない姿を見せることによって反映されていますよね。
松崎 大体の映画が若い頃を思い出しながら苦味というのを感じて終わっていくんですが、この映画は最後で、夢を与えているという形で終わっているのが受け入れられた部分もあるんだろうなと思いますね。
清水 めっちゃ社会学だなと思って聞いていました。私、社会学科なんで。
中井 くるみちゃんは、まだまだ青春映画ってやってみたいと思いますが、いかがですか。
清水 やってみたいです。
中井 アジアでこういうのが出てくるんですから、日本の青春映画でもこういうのが出てきてもおかしくないと思いますね。くるみちゃん自身はアジア進出はどう考えていますか?
清水 できることなら。でも、台湾のヒロインってめちゃくちゃ可愛いじゃないですか。できるかな…。
中井 アジア圏というのは近い感じがするので、これからアジアと一緒に仕事をしていくというのが日本の映画界の中でも重要になってくると思うので、くるみちゃんぜひ架け橋になってもらいたいです。
中井 最後一言づつお願いします。
松崎 夢はなかなかかなわないと思いながら生きてきたんですが、一歩踏み出すと自分もこの仕事をやれるようになったので、自分から何か変えないと物事かなわないなと、ヒロインが会社を辞めるところ観て思い出しました。夢があるのに何だろうなと思ってる方がいたら一歩踏み出してみて、この映画を観て考えてもらえたらいいなと思います。
清水 さっきも言ったんですが、かなわなかった恋は輝かしいなと思う。また10年後に観たらまた違う風に思うのかなと思いました。あと、はやく水風船やりたいなと思いました(笑)
『私の少女時代-OUR TIMES-』公式HP
http://maru-movie.com/ourtimes.html
編集部(暁)
トークの中で「アンディ・ラウって日本はそこまでではない」とありましたが、どうしてどうして。1993年の東京国際ファンタスティック映画祭 アンディ・ラウ特集でのフィーバーぶりはすごかったです。シネマジャーナル27号(1993年)レポートをごらんください。
東京国際ファンタスティック映画祭'93より
劉徳華(アンディ・ラウ)がやってきた
http://www.cinemajournal.net/bn/27/andy.html#fanta
『私の少女時代-OUR TIMES-』シネマジャーナル本誌掲載
●シネマジャーナル97号 大阪アジアン映画祭レポートで紹介
http://www.cinemajournal.net/bn/97/contents.html
●シネマジャーナル98号 新作紹介
http://www.cinemajournal.net/cj/newcj.html