司会:最初にこの映画を観たときの感想から…
曽我部 「ロウ・イエ監督の作品はいつもグーッときて、言葉にならないというか… 何日かして咀嚼して、感情が整理されていくとい うような…。何か具体的なものを求めている作品ではなくて、言葉や形にならないものをなんとかつかみに行っている、というところがあると思うんですね」
司会:ツイッターで、夜明けに泣いたと…
曽我部 「泣きましたねー。最初はPCで観たんですが、4時半ぐらいに画面に向かって一人で泣きました(笑)。ロウ・イエ監督をずっと観させていただいてますが、今回、大傑作だなーと」
トークショー撮影:千
司会:ロウ・イエ監督が好きになったきっかけは…?
曽我部 「最初『天安門の恋人たち』を観て… あー、自分も音楽やってて、こういう世界を描きたいんだよなー、と。こういう世界を描いてくださる人がいるんだと思って、大ファンになりました」
司会:当時、映画館でご覧になったんですか?
曽我部 「そうです。それから『スプリング・フィーバー』もすごく感銘を受けて」
司会:どうしても毎回訊いてしまうんですが、ご存知の方もいるかもしれませんが、曽我部さんの名曲『春の嵐』は『スプリング・フィーバー』をご覧になった時に…
曽我部 「そうです。感銘を受けて、渋谷のシネマライズを… もうなくなってしまいましたが…出てすぐに、これは歌にしたいなーと思って。自分の中から何か歌が出てくるような気がしたから、坂を下りた中華料理屋さんに入ってノートに書いて… その場でできたんです」
司会:今でもライブとかで…
曽我部 「歌います。好きな曲です。ほんとに、ロウ・イエ監督の影響でつくった曲です。今回もそうですが、音楽がいつもすばらし いじゃないですか。前作も最後の曲はすごいいい曲だったし、監督にお会いしたときに、どこで見つけてくるんですか?って話をしたんです。一般的にポップで 人気があるっていう曲よりは、マイナーな曲を見つけてくるのが上手いんですね」
司会:今回も劇中歌はヨハン・ヨハンソンっていうわりと映画音楽をつくっている音楽家なんですけども、ラストの曲は…
曽我部 「歌がある曲ですね。歌がいいですねー。あれは、歌手は…?」
司会:もともと向こうにある曲で、歌手はヤオ・シーサンっていう中国でもかなりアンダーグラウンドな… たぶんまたロウ・イエ監督が見つけて来て、はめ込んでいる…
曽我部 「なんかあの曲からつくったんじゃないかって思うぐらいテーマにぴったりで」
司会:前回の『二重生活』のエンディング曲も…
曽我部 「いい曲でしたねー」
司会:映画を体現する曲を選ぶのが上手いのかなーって
曽我部 「日本だと… すっごい良い映画だったのに… あんまり関係のないJポップとか流れるじゃないですか。歌がある曲が最後に流れるって、難しいことではあるけれども、すごい良いことだと思うんですね。ロウ・イエ監督の作品はいつも、この曲で終わらないと困るよなっていう歌がちゃんと流れてくれて、うれしいですよね」
司会:この映画の中で特に印象的なシーンは…?
曽我部 「パッと思い浮かぶのは、雨のマッサージ店で、外側の風景が流れるようなシーンがあって… 静かで綺麗なシーンだなーと。ネオンサインの色も綺麗で…」
司会:ファンの方はわかると思うんですが、ロウ・イエ監督は雨が好きで多用するんですが… 曽我部さんは雨が好きですか?
曽我部 「あんまり好きじゃない(笑)。実際は天気が良いのが好きですが…前作も雨の中のシーンが良かったし、今回もやっぱりそうだなーって」
司会:なぜ雨を多用するのか監督に訊いたことがあるんですが、その時は、人間の表情がより人間らしくなったりするし、いろんなミラクルが起こったりするからと。川もそうなんですが、ロウ・イエ監督は水を多用しますね
曽我部 「撮影はたいへんでしょうね。雨なんだから」
司会:そういうほんのちょっとの間に、何かミラクルのようなことが起こるのが僕は好きだって、来日の時におっしゃっていました
曽我部 「なるほど…。今回の映画はほんとに最高傑作と言っても過言じゃないような作品と思うんですが… でも、今まででいちばん 重いというか… ずっと続く盲人たちの日々がすごくずっしりと自分に覆いかぶさってくるというか…ここまでしないと最後のあのシーンの美しさに辿り着けない のかと思うと、ホントに恐れ入りますって感じで、凄いなって思いますねー。つらいような痛いようなシーンも多かったんですけれども、やっぱりそういうもの を積み重ねて行って、ようやく最後に何か辿り着く場所みたいなものがあるって気がしました。ほんとに、負けないようにものづくりしないとなーって、ロウ・ イエ監督の作品を観るといつも思いますね。肝に銘じます」
司会:ロウ・イエ監督はこれまで一貫して愛というテーマを撮り続けていると思うんですが、曽我部さんも愛をテーマに90年代ぐ らいからずっと歌い続けていて、映画と音楽と違う世界ですが、何か近いものを感じるんですね。愛と言っても家族の愛、恋人の愛、いろんな愛があると思うん ですが…不確かで形のない、そういう愛について、曽我部さんはどういう思いを…?
曽我部 「あのー、愛をテーマに活動しています、みたいなことは監督もまずないでしょうし…でも、愛がテーマに結果としてなっ ちゃうんですよね。やっぱり共通して、何か欲しがっている… 心のやすらぎとか、あたたかさとか、自分に必要なもの、欠けているものを探して生きていると思 うんだけど… それを愛という言葉にしてるだけなんだと思うんですけど。やっぱり監督も、何か捕まえようと映画の中でしてるし、自分は歌でそういうものが ちょっと触れたらいいなーと思うんですけど」
司会:深いですよねー
曽我部 「ですかねー。でもどんな歌でもラブソングだと思うし、映画もそういうものだと僕は思います」
(敬称・略)
☆編集部
曽我部さんの爽やかな音楽とは対極に位置するようなロウ・イエ監督の作品だけれども… とても影響を受けているとおっしゃる… ただ共通するのは、みんな根底に愛が流れてる… とても深いトークで、終わったあと色々と考え込んでしまいました。このあと楽屋にて少しインタビューもさせていただきました。その模様はシネジャ本誌最新99号に掲載いたしますので(2月末発行予定です。) お楽しみに!!! (千)
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取材協力 せこ三平