(C)2018「モリのいる場所」製作委員会
『モリのいる場所』(沖田修一監督)
画家の熊谷守一(山崎努)94歳と妻秀子(樹木希林)76歳のある一日。伝記映画ではなく、史実をもとに作り上げたモリ夫婦が生きています。自宅と小さな庭がモリの生活の全て。30年自宅から出ず、地面に寝そべって蟻を観察し、空を見上げて風を感じ、身近なものだけを一日に数時間描きつづけた日々。線描を生かし、平坦に塗られた絵は誰とも違うモリの絵です。「人がたくさん来るのがいやだ」と文化勲章も断ります。この場面が出色。
お2人は5人の子を授かりながら赤貧のうちに3人を亡くしてしまっています。残った娘さんと息子さんが家の跡と生まれ故郷に美術館を建てました。数多く残されている絵の動物や花たちに会いに美術館に行きたいなぁ。
(C)2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」製作委員会
『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』(山田洋次監督)
平田周蔵(橋爪功)・富子(吉行和子)、長男 幸之助(西村まさ彦)・妻の史枝(夏川結衣)、長女 成子(中嶋朋子)その夫・金井泰蔵(林家正蔵)、次男庄太(妻夫木聡)・妻憲子(蒼井優)の悲喜こもごもをシリーズで描いてきましたが、その第3弾。
前作で周蔵の旧友を演じた小林稔侍が生き返って(笑)友人の医師役で登場していました。風吹ジュンと徳永ゆうきは同じ役で続投。
今回のメインは同居する長男夫婦。専業主婦の史枝がうたた寝をしている間にこそ泥(笹野高史)が入り、隠していたへそくりを盗られたことから騒動になります。面倒な案件を片付けるために出張していた幸之助は激昂、謝る史枝に言わなくてもいい言葉を投げつけます。耐え切れなくなった史枝は家出。急に主婦がいなくなった平田家はてんやわんや。それが収束するまでを「家族あるある」をちりばめて描きます。
観ながら自分もまだ20代の主婦だったとき、4歳と2歳の息子を連れて家出したのを思い出していました。当時転勤で九州に住んでいたので、夫とケンカしてもすぐ北海道の実家に帰るわけにはいきません。一番近くにいた友人でも特急電車で3時間ほどかかります。結婚してお姑さん小姑さんと同居、うちより小さい子を子育て中だったのに、どうしても会いたかったのです。電話したらおいでと言ってくれたので、社宅の友人にこれから出るから、と声をかけ(今思うとおかしい)置手紙をして子どもを連れて夫が帰る前に出ました。雪の季節で、もう暗くなってから友人の嫁ぎ先にやっと到着。何年ぶりかの友人の顔をみたとたん泣きそうなのを、ママですから子どもの手前我慢しました。
子どもたちを寝かせて友人のお姑さんにご挨拶にいきましたら、こんこんと諭されました。慰めてもらいたかった私には藪蛇でしたが(汗)。
「せっかく結んだ縁なのだから、つなぎなさい。なんにでもつなぎなさい。自分から切ったらダメ」「相手を変えようとしないで、自分が大人になりなさい」と言われたのを覚えています。友人も私と並んでいます。あかちゃんを抱えて一家の嫁を勤めている友人の手はあかぎれで痛そうでした。いくらハンドクリームを塗っても水仕事が多いので、治らないのと言います。私の手は昔とそう変わりません。翌日もくるくると働く友人にこれ以上世話をかけないよう、早めに戻りました。子どもたちには全然記憶が残っていないようです。で、その後一度も家出することなく、今に至っております。ま、映画の史枝さんと違って、着々と「放し飼い主婦」状態に。自分のしたいことを我慢しないでやれています。感謝。(白)