2021年01月31日

巣ごもり上映会A 『Dalya’s Other Country』 ★アメリカに移住したシリアの少女  (咲)

イスラームと欧米社会との共生を考える映画のオンライン上映会。
1月30日(土)は、内戦を逃れてアメリカに移住したシリアの少女の成長を追ったドキュメンタリーでした。

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『Dalya's Other Country』
ジュリア・メルツァー監督
2017年、75分

◆高橋 圭さん(東洋大学)より趣旨説明と映画の登場人物等について紹介
昨日のフランスに亡命したアルジェリア女性のドキュメンタリー『マダム・ラ・フランス』に続き、欧米におけるムスリムと非ムスリムの共生を考える上映会。

本日の映画『Dalya's Other Country』は、アメリカで抑圧されているムスリムの話ではない。
2012年、内戦を逃れてシリアのアレッポからアメリカのロスアンゼルスに移住した家族を追ったドキュメンタリー。
少女ダリヤの高校生活から卒業までを追った成長物語でもある。
両親はかつてアメリカで10年暮らしたことがあって、市民権も持っており経済的に裕福。シリア難民の「着の身着のまま」というイメージではない。

ダリヤの家族構成:
母 ルダイナ シリアでは専業主婦
兄 ムスタファ 内戦前にアメリカの大学に進学し、そのままアメリカに住んでいる。大学を出て映画製作をしている。
父 ムハンマド・ハサン 現在、一緒に暮らしていない。アレッポではオリーブオイルの工場を経営していた。

ジュリア・メルツァー監督について:
ドキュメンタリー作家。かつて、ダマスカスで女子クルアーン学校のドキュメンタリーを撮るため、シリアに長期滞在していたことがある。内戦でシリアに行けなくなり、前作の時に一緒にやっていた兄ムスタファと本作を共同製作。ジュリアは非ムスリムだが、ムスリムであるムスタファの視線も入っている。

*映画*
2012年、戦争が勃発し、ダリヤは母ルダイナと共にアレッポからロサンゼルスに避難。
父は二人目の妻をルダイナに内緒で娶ったことが判明。アメリカには一緒に来ず、トルコのメルスィンに逃れた。
ダリヤは私立の聖家族カトリック高校に入学し、スカーフを被って登校する。ムスリマはダリヤ一人。
2014年、スカーフを被ってバスケットボールをするダリヤ。かつてはスカーフを被ってスポーツができると思っていなかった。
母ルダイナは息子の勧めで大学に通うようになる。
兄が父をアメリカに呼ぶ。二人目の妻とは別れたというが、ルダイナはもう彼を愛してない。
父に、「死んだらどこに埋めてほしい?」と尋ねるダリヤ。
「メルスィンは自分にとってアレッポのようになっている」と答える父。

2015年 学校に東欧出身のムスリマの女性が来て話をしてくれる。
「イスラームについて何も知らなかったけれど、アメリカに来て学んだ」と語る彼女に、ダリヤは感化される。

2017年1月 トランプが大統領就任早々、ムスリムの多い特定の国からの入国を禁止する。
「パリが美しくないのはムスリムのせい」とトランプがテレビで語るのを聞いて、母ルダイナが偏見を持っているとつぶやく。「一部のムスリムの行動なのに。キリスト教徒が悪いことをしても、彼はキリスト教徒皆が悪いとは言わない」
母、スカーフの代わりに帽子を被って外出する。スカーフを見て攻撃されると困るからと。
ダリヤ「ヒジャーブは私の人生。自分がどこから来たのか、自分がどういう人なのかを表すもの」

卒業式に父が来る。
「近い将来、結婚するつもりはない。父の悪い部分をほかの男性も持っていると思ってしまう」と語るダリヤ。
その後、父はトルコのメルスィンで3人目の妻を娶る・・・・

********

アメリカに来たばかりの頃は、あまり英語も出来なかったダリヤが、学校で多様な民族の同級生たちと学び、アメリカ社会に馴染んでいきます。トランプのムスリム排除の言葉にもめげず、ヒジャーブ姿を貫き、生き生きと将来の夢を語る姿が眩しかったです。
イスラームでは、4人まで妻を娶っていいとはいえ、第一夫人の了解も得ないで、第二夫人と結婚してしまったお父さんに、娘としては複雑な思い。男性不信にもなるでしょう。そんな娘の思いも知らず、懲りずに3人目と結婚してしまうお父さん!
ムハンマドが4人まで娶ってもいいと言った意図は別だったはず!
それはともかく、バイデン大統領が無事就任し、トランプの出した特定のムスリムの多い国からの入国制限を撤廃する大統領令に署名してくれて、ほっとしました。 トランプの4年間に、ムスリムへの攻撃がより組織化したらしいのですが、ムスリムに限らず人種差別的なムードを高揚させた功罪は大きいです。 お互いに違いを認めて共生する社会になってほしいものです。 (景山咲子)

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巣ごもり上映会
2021年1月30日(土)14:00〜17:00
『Dalya’s Other Country』
ジュリア・メルツァー監督(2017年、75分)
詳細:http://islam-gender.jp/news/189.html

主催/共催
◆科研費基盤研究(A)「イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究」(代表:長沢栄治)
◆科研費新学術領域研究「グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立」B03班「文明と広域ネットワーク:生態圏から思想、経済、運動のグローバル化まで」(代表:酒井啓子)
◆中東映画研究会




posted by sakiko at 19:41| Comment(0) | イベント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

巣ごもり上映会@『マダム・ラ・フランス』 ★アルジェリア出身の女性監督作品(咲)

1月29日(金)30日(土)と2日続けて、イスラームと欧米社会との共生を考える映画のオンライン上映会が開催されました。研究者による解説付き。
まずは、29日の上映作品から。
★30日の『Dalya’s Other Country』上映会はこちらで!


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『マダム・ラ・フランス』 原題:Madame la France, ma mère et moi
監督:サミア・シャラ  2012年、52分

アルジェリア出身で、1994年にフランスに亡命したサミア・シャラ監督による自伝的ドキュメンタリー。2013年、フランスで公開。

アルジェリア独立2年後の1964年にアルジェで生まれたシャラさん。学生時代の1980年代、イスラーム復興を目指す民衆運動が起こり、シャラさんはそれに反対し、女性の権利を擁護する運動に加わる。
1990年からの暗黒の10年。多くの人が殺され、10万人が国外へ。シャラさんも1994年にフランスに亡命。「イスラーム原理主義と闘うアラブ人フェミニスト」として歓迎される。
だが、2001年の9.11事件を契機に、敵意がすべてのムスリムに向けられるようになる。彼女はフランス人のイスラームへの偏見やアラブ人女性への差別意識を肌で感じるようになる。スカーフ問題も浮上する。

亡き母の生まれ育ったカビール地方の村を訪れるシャラさん。
叔母がフランスの植民地時代の蛮行を語る詩を口ずさむ。
♪土地を奪われ、女性が連れ去られた・・・
叔母、「私は免れたけど、レイプされたために結婚できない娘がたくさんいた」と語る。
シャラさんが子どもの頃、母の抵抗の歌を聴いて育ったのを思い出す。戦争の恐怖も語っていた。
♪フランス人は恥じてないのか・・・と叔母の歌は続く。   


◆解説
森 千香子さん(同志社大学)

タイトルの『マダム・ラ・フランス』は、フランスを擬人化したもの。
原題:Madame la France, ma mère et moi マダム・ラ・フランスの後に「私の母と私」。
私の母はアルジェリアを象徴している。
作品の中では、「私たちの母たち」の表現も多い。

フランスにおけるベール問題は、1989年から続いている。
移民2世が学校に行くようになり問題視されるようなった。
2004年 登校時のスカーフ禁止の法律ができる。
その後も論争が続いている。
アラブ移民とフランス人の間の論争だけでなく、アラブ移民内部での論争も。
アラブコミュニティーの男と女の間も引き裂いている。
アラブ女性当人の言葉に耳を傾けてくれることはない。
フランス社会のアラブ移民の女性に向ける見下した目がある。

アルジェリアでベール着用に反対することと、フランスでベール着用を擁護することは矛盾しない。女性の自主的な選択を擁護することであるから。

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シャラさんの「フランスにきてからムスリマになった」という言葉が象徴的でした。
アルジェリアにいた頃には、スカーフを被ることもなかったシャラさんが、鏡の前でスカーフを様々な形で被ってみる場面がありました。
本人は世俗化した人間だと語っているのですが、スカーフを被ることでムスリマであるというよりも、アルジェリア出身の女性としての誇りをアピールしているように思えました。
映画の中で、1958年、アルジェリアで「美しい女性はスカーフを取りましょう」と将軍の夫人たちがスカーフ撲滅の儀式を行ったという場面がありました。スカーフなしでの外出は考えられない時代。(注:スカーフというより、アルジェリアなので、ハイクと呼ばれる布で頭からすっぽり覆う形だと思います。)
この場面を見て思い起こしたのが、イランで、パフラヴィー朝の王レザー・シャー1世が、1936年に出したチャードル禁止令。西洋的な近代化を目指そうとしたものですが、路上で無理やりチャードルを取られるという事態に、保守的な女性たちは困惑したそうです。スカーフ着用を強制するのも、被るなと強制するのも、どちらも人権無視です。本人の意思に任せる社会であってほしいものです。(景山咲子)


アルジェリア女性を描いた映画として、下記もご参考に。

『ラシーダ』 監督:ヤミーナ・バシール=シューイフ
2月20日からの「イスラーム映画祭6」で上映されます。

『パピチャ 未来へのランウェイ』2020年10月30日公開

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巣ごもり上映会
『マダム・ラ・フランス(Madame la France, ma mère et
moi)』(サミア・シャラ監督)
2021年1月29日(金)17:00〜19:00 Zoomを用いたオンライン開催
詳細:http://islam-gender.jp/news/200.html

■主催
・科研費基盤研究(A) イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究(代表:長沢 栄治)
・科研費新学術領域研究「グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立」B03班「文明と広域ネットワーク:生態圏から思想、経済、運動のグローバル化まで」(代表:酒井 啓子)





posted by sakiko at 17:55| Comment(0) | イベント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする