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1977年から40年以上にわたり国内外に自主映画を紹介してきたぴあフィルムフェスティバル(PFF)が2020年に創設した「大島渚賞」。かつて大島監督が世界に挑戦していったように、映画の未来を拓き、自ら世界に挑戦し新しい道を切り拓こうとしている次世代の監督を、期待と称賛を込めて顕彰する賞です。
審査員長は坂本龍一さん(音楽家)、他の審査員は黒沢清さん(映画監督)、荒木啓子さん(PFFディレクター)。3名による討議の末、賞を決定してきましたが、第一回(2020)の受賞者は『セノーテ』の小田香監督。小田監督はタル・ベーラ監督が指揮する若手映画作家育成プログラムに参加し、ボスニアの炭鉱の労働者を撮影した『鉱 ARAGANE』を製作、その後、自ら潜水の資格を取って水中撮影に挑戦し、マヤ文明に起源を持つ人たちの生活とセノーテ=泉の関係を描いた『セノーテ』を製作した。小田監督は「タルベーラ監督は世界がより良くなればいいと思って映画を作っていると思うんです。私は映画で世界を変えられるとは思っていないですが、その考えを共有しています」と語っている。
そして、第二回大島渚賞は該当者なし。該当者なしについて、審査員長の坂本龍一さんは「もし大島渚賞などという形で大島渚が権威になるのだったら、それこそ大島渚が最も嫌ったことだろう。だから大島渚に迎合するのは絶対にだめなのだ。そうではなく大島渚を挑発し、批判し、越えていくことこそ最も大島渚賞にふさわしいと言えるのだ。そのような映画にわたしたちは出会いたい」と語っています。

藤元明緒監督『海辺の彼女たち』公開前のインタビューにて(ポレポレ座)撮影:宮崎暁美
そして、第3回の大島渚賞には『海辺の彼女たち』の藤元明緒監督が選ばれました。この作品は劣悪な労働環境の中、元の職場から失踪し、海辺の街で懸命に生きるベトナムの女性3人を主人公にした物語です。途上国への技術移転の名目で安い労働力として働かされている技能実習生。現在、その半数以上はベトナム人。劣悪な労働環境などから失踪する例が後を絶たない。その実態を元に作られた、彼女たちに寄り添った作品。2020年の技能実習生の失踪者数は5885人でベトナムが3741人と最も多い。元々はミャンマー人の女性からのSNS上のSOSをキャッチしたのがきっかけだったという。
なお『海辺の彼女たち』は、新藤兼人賞金賞やTAMA映画賞最優秀新進監督賞など多数の映画賞を受賞している。
公式HP
https://pff.jp/jp/oshima-prize/藤元監督のこの作品は、日本に来ている技能実習生の実態について、何も知らない日本人に警鐘を鳴らしたと思う。
つい先日、タレントの田中義剛さんが経営する花畑牧場で1月から続いていたベトナム人技能実習生との労使紛争の和解が成立したとのニュースが流れたけど、花畑牧場では約7000円だった寮の水道光熱費が去年11月から今年1月にかけて働いている人に告知も交渉もなしに15000円に値上げされて、この大幅な値上げに抗議して、約120人いるベトナム人従業員のうち40人ちかくのベトナム人技能実習生がストライキを実施。その後、雇止めを通告されたり、田中社長側が損害賠償請求や刑事告訴をしてして労使紛争に発展していたらしいが、札幌地域労働組合が介入し、「会社は、雇用するベトナム人労働者に対する、水道光熱費の値上げから始まる一連の対応が不適切であったことを認め、ベトナム人労働者に対し謝罪する」という形で妥結したらしい。
花畑牧場に4年くらい前に行ったことがあるけど、日本人従業員もたくさんいた。住み込みの日本人も光熱費は引かれていたのだろうか。私は長野県の大町と白馬のスキー場で、住み込みで5年くらい働いていたことがあるけど、光熱費が引かれたという記憶はない。事情を知らないベトナム人だからと光熱費を引いていたのではないだろうか。この花畑牧場は有名なところだし、120名ものベトナム人が働いているというのでマスコミにも取り上げられたけど氷山の一角だと思う。

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藤元明緒監督の前作は、日本とミャンマー合作の『僕の帰る場所』。日本とミャンマー、二つの国で揺れる少年と家族の愛の物語。こちらもミャンマー人に寄り添う作品である。
藤元明緒監督の短編『白骨街道 ACT1』(16分)が4月16日から22日まで、ポレポレ東中野始め、日本全国18舘で公開される。インドとミャンマーの国境近くに住む少数民族ゾミ族の人たちが、太平洋戦争中の日本兵の遺骨収集事業を担い、かつて第二次世界大戦の戦場だった場所へ向かう状況を捉えた作品。なお、この作品は2020年の大阪アジアン映画祭で上映された。
『僕の帰る場所』との併映で、収益金の一部と募金箱への協力金はミャンマー市民を支援する活動に寄付される。
公式HP なおシネマジャーナルでは『僕の帰る場所』と『海辺の彼女たち』で、藤元明緒監督、渡邉一孝プロデューサーにインタビューしています。

『僕の帰る場所』藤元明緒監督インタビュー時 学士会館にて

『僕の帰る場所』監督、スタッフ、出演者たち 2017東京国際映画祭にて
撮影:上下 宮崎暁美
シネジャHP 藤元明緒監督、渡邉一孝プロデューサーインタビュー記事
『僕の帰る場所』『海辺の彼女たち』
前編『海辺の彼女たち』
後編「第3回大島渚賞 記念上映会」PFF
公式HPより
4月3日に東京・丸ビルホールで実施。受賞した藤元監督の『海辺の彼女たち』と大島監督の『絞死刑』を上映。『絞死刑』は1969年のカンヌ映画祭監督週間で上映され、大島監督の国際的評価の皮切りとなった作品。2作の上映後には藤元監督、審査員の黒沢監督、大島新氏(大島渚監督の次男で、『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』を監督)が登壇しトークショーを行う。
『海辺の彼女たち』
2020年/日本・ベトナム/カラー/88分
監督・脚本・編集:藤元明緒/プロデューサー:渡邉一孝、ジョシュ・レヴィ、ヌエン・ル・ハン
出演: ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニュー
藤元明緒監督のプロフィール
1988年大阪府生まれ。ビジュアルアーツ専門学校大阪で映画制作を学ぶ。在日ミャンマー人家族を描く初長編『僕の帰る場所』(2018年)は東京国際映画祭をはじめ33の国際映画祭で上映された。21年、ベトナム人技能実習生を描く長編第2作『海辺の彼女たち』を公開。同作品で2021年度「新藤兼人賞」金賞、TAMA映画賞最優秀新進監督賞など多数の映画賞を受賞。新作短編『白骨街道 ACT1』が、4月に特集企画「映画を観て、ミャンマーを知る Vol.2」の上映作品として劇場公開される。
■トークショー
藤元明緒監督(第3回受賞者)×黒沢清氏(映画監督)×大島新氏(ドキュメンタリー監督)
MC:荒木啓子(PFFディレクター)
■タイムテーブル(予定/途中休憩あり)
12:30〜 開場
13:00〜 『海辺の彼女たち』
14:40〜 トークショー
15:40〜 『絞死刑』
17:40頃 終映予定
■TICKET
3月19日(土)午前10時より、チケットぴあにて発売!(Pコード:552-037)
一般 2,500円、学生 1,500円
【購入は
こちらから】
・チケットは、4月3日(日)13時まで販売します。
・会場での当日券販売はありません。
・全席指定席です。(チケット購入時、自動的に座席が決定します。ご了承ください)
・会場ではチケットの発券が出来ません。必ずコンビニで発券のうえご来場ください。
・チケットの払い戻し、交換、再発行はいたしません。
まとめ 宮崎暁美
posted by akemi at 21:07|
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