2024年5月24日(金)〜6月1日(土)に観た映画は10本。そのうち5本が台湾映画及び台湾に関連した作品。台湾の映画祭や特集上映以外では、こんなに短期間に台湾映画を集中的に観たのは初めて。上映会だけの作品、これから公開される作品など、この夏は台湾映画が熱い!
●5月24日(金)
『春行』(2023)台湾文化センター
監督:彭紫恵(ポン・ツーホイ)、王品文(ワン・ピンウェン)
「台湾文化センター 台湾映画上映会2024」映画『春行』上映会トークイベントにて。
左からポン・ツーホイ監督、ワン・ピンウェン監督、工藤将亮監督、通訳中山大樹さん、リム・カーワイ監督
今年の大阪アジアン映画祭でも上映され、すでに観ていたけど、今回監督とのオンライントークがあるとのことで参加。
台北の郊外に暮らす熟年夫婦。冒頭から言い争いをしていて、二人一緒に行動するときは、いつも言い争いをしている。いかに仲が悪いかがアピールされるが、そのうち、言い争いばかりしている夫婦の、見えない絆、思いやりがそろっと出てくる。妻が転んで足を怪我するとおろおろする。そんな日常の中で、妻が突然死してしまう。しかし、葬儀をするわけではなく、なんと冷凍保存してしまう。そこの所も、最初、よくわからなかったけど、妻と離れたくないという思いの現れだったのか。
この作品は、ポン・ツーホイとワン・ピンウェンという、ツァイ・ミンリャン監督好きの、まだ若い二人の女性監督の作品だった。
全編台湾語だったが、そのことを聞かれて「本作は16 mmフイルム撮影も含め、時代と共に失われていくものを撮りたかったのです。戒厳令下において台湾語は学校で使用は禁止され、いまは台湾語を使う人は少なくなっています」と、失われていく記憶をフィルム撮影に収めたとポン監督が語った。
妻役で楊貴媚(ヤン・クイメイ)が出ていたけど、まだ若いのに熟年役?と思っていたら、その後に観た、『村と爆弾』(1987)、『無言の丘』(
1992)に出演していたのを知り、そんな時代から活躍していたんだと驚いた。『村と爆弾』は37年以上前の作品だから、もう熟年世代ではあるんだ。この2作品が1990年代初めに日本で上映された時にも観ているけど、その時は彼女が出演しているという認識がなかった。今回「台湾巨匠傑作選2024」の試写で観て、この2作品にも出演していたんだと思い、この『春行』での熟年役に納得。それにしても若い。彼女が出ているから、日本公開ありかも。
*シネマジャーナルHP
台湾映画上映会2024 『春行』上映会&トークイベント
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/503740198.html●5月25日(土)ドキュメンタリー映画
『中村地平』 監督:小松孝英
一般財団法人台湾協会主催上映会 台湾文化センター
台湾や南方に関する小説を発表していた中村地平を紹介するドキュメンタリー。
1908年宮崎県に生まれた中村地平。佐藤春夫の台湾小説に憧れて台北高校に進学、東京帝国大学在学中に太宰治と出会い、井伏鱒二に師事し「熱帯柳の種子」で文壇デビューし、「北の太宰、南の地平」と称されたという。台湾を舞台にした小説など数々の作品を多数発表し、南方文学の旗手として脚光を浴びるようになりましたが、従軍作家としてシンガポールに派遣されて以降、南方文学から転向し、戦後は宮崎の復興に尽くして1963年に55年の生涯を終えたそうです。霧社事件にもスポットをあて、台湾の山河と昔日の光景を交えながら作家の苦悩に肉迫し、激動の近代に生きた一人の作家の人生を描いています。
この方の名前を知りませんでしたが、かつて「南方文学」というような文学のジャンルがあったということを知りました。それに、日本統治時代の台湾の光景もけっこう出てきました。
小松孝英監督(右)&中村地平さんのお孫さん?
●5月27日(月)
『狼が羊に恋をするとき』原題:南方小羊牧場
監督・脚本:侯季然(ホウ・チーラン) 2012年
2024年6月14日(金)より下北沢トリウッドにて公開
c2012 Strawberry Time Films ALL RIGHTS RESERVED
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013、カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2014(東京)、台湾映画祭2015(福岡)と上映されたが、一般公開はされないままだった。その作品が10年の時を経て公開。
*シネマジャーナルHP 特別記事 2013
祝10周年! SKIPシティ国際Dシネマ映画祭
http://www.cinemajournal.net/special/2013/skip/index.html「予備校に行くね」というメモを残し、恋人のイーインが姿を消してしまった。タンは、台北駅近くの予備校が集まる「南陽街」に彼女を捜しにやってきた。タンはひょんなことから印刷屋の店長に拾われ住み込みで働き始める。近隣の予備校から依頼されるテスト用紙の印刷に明け暮れるうち、とある予備校の原稿に羊のイラストが描かれていることに気付く。羊のイラストを描いていたのは「必勝予備校」のアシスタント・小羊(シャオヤン)だった。タンは遊び心から、これに狼のイラストを書き足してしまう。間違って印刷されてしまった用紙が納品され、テスト用紙上で狼と羊は会話を始めてしまう。奇想天外な物語。
シネマジャーナルHP
作品紹介●5月31日(金) 試写
『村と爆弾』[デジタルリマスター版] 原題:稻草人(1987)
監督:王童(ワン・トン)
「
台湾巨匠傑作選2024〜台湾映画の傑物 ワン・トン(王童)監督と台湾ニューシネマの監督たち〜」
2024年7月20日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次開催
(C)2015 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
監督:王童(ワン・トン)
撮影:李屏賓(リー・ピンビン)
出演:兄・アファ:張柏舟(チャン・ボーチョウ)、弟・コウヅエ:卓勝利(ジョウ・シェンリー)、弟の妻・楊貴媚(ヤン・クイメイ)
台湾が日本に統治されていた時代。太平洋戦争末期の台湾。農村で暮らす小作人のアファとコウヅエの兄弟は家族とともに貧しい農耕生活を送っていた。母親は耳が遠く、妹は夫を戦争で失って以後、精神を病んでいる。ある日、遠方から地主がやって来て、田畑を製糖会社に売り払うと兄弟に告げる。さらに追い打ちをかけるように、一家の唯一の財産である牛が日本に徴用されてしまう。翌日、今度は村が米軍機の空襲を受け、敵機が去った後、兄弟の畑に一発の不発弾が残されてしまった。上官から褒美をせしめようと、兄弟と村の巡査は隣町の駐在所へ不発弾を、二人で担いで届けに行く。だが上官は爆弾の暴発を恐れ、海に投棄するよう命じた。銃を突き付けられ、しぶしぶと海辺へ爆弾を運ぶ兄弟。爆弾を海に投げ込みしばらくすると水柱が上がり、人々は呆気にとられるが、爆発の衝撃で死んだ魚が海面に浮かぶや、我先にと海へ入り、魚をかき集める。兄弟たちも大量の魚を手に、村へと帰って行くのだった。日本による植民地政策のもと、不条理な状況に置かれた村の農民たちの悲哀としたたかさがユーモアたっぷりに描かれる。
20数年前の台湾映画の特集上映の時にも観ていたけど、その時は台湾映画を観始めだったし、台湾に行ったこともなかったので、台湾の文化のことをほとんど知らずに観ていた。日本語が結構使われているのに驚いた記憶がある。
その時はわからなかったけど、今回観て、楊貴媚(ヤン・クイメイ)が弟の妻役で出ていたのにびっくり。『無言の丘』(1992)にも出ていた。彼女のことを認識したのは、『恋人たちの食卓』(1994)、『愛情萬歳』(1994)あたりからだったけど、1987年にはすでに映画に出演していたのですね。『春行』に熟年夫婦役で出てきた時には、まだ若いのに熟年?と思ったけど、年相応ということだったんだということなのですね。それにしても若々しい。撮影は李屏賓(リー・ピンビン)。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督とのコンビで知られているけど、ワン・トン監督の作品も撮っていたんですね。
(C)2015 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
台湾巨匠傑作選2024 公式HP:
https://taiwan-kyosho.com 配給:オリオフィルムズ
配給協力:トラヴィス
共催:国家電影及視聴文化中心
6月1日(土) 新宿武蔵野館
『郷愁鉄路〜台湾、こころの旅〜』原題:南方、寂寞鐵道
監督:簫菊貞(シャオ・ジュイジェン)
音楽:陳明章(チェン・ミンジャン)/謝韻雅(シェ・ユンヤー)
編集:陳博文(チェン・ボーウェン)/陳c璁(チェン・ユーツォン)
音響:杜篤之(ドゥ・ドゥーチー)/謝青㚬(シェ・チンジュン)
7月5日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公開前に監督が登壇する上映会があると友人から連絡があり、上映数日前に残り少ないチケットを買って新宿武蔵野館へ。
台湾南部の鉄道路線「南廻線」。台湾を一周する鉄道路線のうち、最後に建設された「南廻線」。その「南廻線」を支える鉄道員と家族、同線を愛する人々の想いを記録した台湾初の鉄道文化ドキュメンタリー作品とのこと。台湾映画では鉄道がよく出てくるけど、鉄道とその周辺を扱ったドキュメンタリー作品はこれまでなかったのかな? そういえば、台湾発のドキュメンタリー作品って、あまり日本には入っては来ていないかも。公開された作品でぱっと思い浮かぶのは、『天空からの招待状』(2013)、『台湾、街かどの人形劇』(2019)、『私たちの青春、台湾』(2020)、『湾生回家』(2015)くらい。もちろん山形国際ドキュメンタリー映画祭では毎年台湾からの参加はあるけど、日本の映画館で公開されたことはあまりないような気がする。
台湾南部の鉄道路線「南廻線」。屏東県枋寮駅から台東県台東駅までを結ぶこの路線は、パイナップル畑や線路の近くまで迫る海など大自然の中をSLやディーゼル列車がのんびりと走り抜ける旅情豊かな路線のようです。そういう光景がたくさん出てきた。でも、2020年に全線で電化され、大きく変化を遂げたそう。この作品はそれまでの最後の日々を4年に渡って撮った作品。
シャオ・ジュイジェン監督は台湾でドキュメンタリー監督として活躍、山形ドキュメンタリー映画祭にも出品経験があります。この作品は4年の歳月をかけ失われていく沿線の原風景と鉄路をカメラで記録し、鉄道員やその家族、「南廻線」を愛する人々の想いを残しました。
7月5日から公開されるのでぜひ観に行ってください。
シャオ・ジュイジェン監督
『郷愁鉄路〜台湾、こころの旅〜』
公式HP 製作:Pineal Culture Studio(上善醫文化工作室)
2023年/台湾/106分/DCP/日本語字幕:樋口裕子
/翻訳協力:小田急電鉄株式会社/G
配給:武蔵野エンタテインメント cPineal Culture Studio