4月28日、根津神社で見頃のツツジを楽しんだあと、東京大学東洋文化研究所での中東映画研究会へ。
2013年6月に若手研究者の方たちを中心に始まった中東映画研究会(「映画から見る中東社会の変容」研究会)も、16回目を迎えました。
今回の題材は、パリ生まれのアルジェリア系ラシード・ブーシャーレブ監督による『ロンドン・リバー』。2009年、アルジェリア・フランス・イギリス合作の作品。
*ストーリー*
2005年7月7日、ロンドンで同時多発テロが発生する。英仏海峡のガーンジー島で農業を営むエリザベスは、ロンドンで大学生活を送る娘ジェーンに何度も電話するが連絡が取れない。心配になってロンドンに赴いたエリザベスは、留守の部屋で娘がアラビア語を学んでいることを知る。同じ部屋で暮らしていた恋人の父親オスマンも、行方不明の息子を探しにフランスからやってくる。西アフリカ出身のイスラーム教徒のオスマンと、キリスト教徒のエリザベスの二人が、励まし合いながら子どもたちの行方を追う・・・
今回の研究会のテーマは、「共有」。
“子どもへの愛と喪失感、悲しみを「共有」することで宗教や文化の違いを乗り越える親たちの姿を描き出す本作を通して、「テロとの戦い」が政治的言説空間を占拠する困難な時代の多文化共生の可能性について考えてみたい”と、案内にありました。
上映後、パレスチナ・イスラエル研究の第一人者で、「対テロ戦争」とイスラームをめぐる排除の力学について長年研究してこられた日本女子大学教授・臼杵陽先生の的確なコメントをお聞きすることができました。
同時多発テロというと、ニューヨークでの9.11(2001年9月11日)が思い浮かびますが、ロンドンでもそういえばあったと思い起こします。
イギリスに住むパキスタン系イスラーム教徒が起こしたテロ。本作では、アラビア語を学んでいた恋人どうしの二人がムスリムのテロで亡くなるという非条理。
旅行代理店の担当者がシク教徒だったり、警察にアラビア語を話す北アフリカ系と思われる担当官がいたりと、イギリスが多民族多宗教国家であることも見せています。それは世界の縮図でもあって、「テロとの戦い」と欧米の政治家が叫ぶ背景に感じる「欧米⇔イスラーム」「文明⇔野蛮」といった二分法的世界観では、テロは撲滅できないことに気づかせてくれます。
エリザベスは娘がアラビア語を学んでいるのを知って、「なんと怖い」とつぶやきますが、これはまぁごく一般的な反応でしょう。特に最近では、ISIS(イスラーム国)の台頭もあって、ますますイスラームは怖いというイメージを持たれてしまうのが悲しいです。他者の宗教や民族を尊敬することから平和共存への一歩は始まると思うのですが、なかなか難しいですね・・・
(ちなみに私自身はムスリマではないですが、あちこち旅をしてイスラームの人たちの優しさを身をもって感じているので、イスラーム贔屓という次第!)
『ロンドン・リバー』は、調べてみたら「三大映画祭週間2014」で公開されていました。この映画祭、チラシはちゃんとゲットしたのに、うっかり行き損ねたら、『フィル・ザ・ヴォイド』(イスラエル)がよかったと聞いて悔しい思いをしたのでした。『ロンドン・リバー』も秀作でした。今年も三大映画祭週間があるなら、見逃さないようにしないと!
余談ですが、エリザベスの住むガーンジー島、どこかで聞いた名前と思ったら、ついこの間観た『わたしの、終わらない旅』で、坂田雅子監督の姉・悠子さんの住む島として出てきたのでした!
2015年04月30日
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