2020年05月17日

モロッコ、アマジグ族の姉妹『ハウス・イン・ザ・フィールズ』  ★オンライン公開中  (咲)

緊急事態宣言で映画館が休館を余儀なくされている中、公開予定作品の一足早いオンラインでの配信が続々!

その中に、モロッコのアトラス山脈の村で暮らすアマジグ族の姉妹を追ったドキュメンタリーがあります。

アマジグ族というとピンとこないかもしれませんが、蔑称で、ベルベルと呼ばれてきた人たちです。フェニキアやローマやアラブが北アフリカに侵攻する前から、暮らしていた人たち。今も、エジプトからモロッコに至る北アフリカに点在して暮らしていて、モーリタニア、ニジェール、マリにもいます。モロッコは特に多くて、人口の半分を占めています。

ベルベルが蔑称だということは知っていたのですが、彼ら自身の言葉では、アマーズィーグ(自由の民)だということを知ったのは、2016年3月、上智大学アジア文化研究所の連続講座「ベルベルの言語と文化」でのことでした。
この講座で教わったことは後で触れるとして、まずは映画のことから。

house of the fields.jpg
『ハウス・イン・ザ・フィールズ』 
原題: TIGM N IGREN
2017年/モロッコ、カタール/アマジグ語/1:1.85/86分
監督・撮影:タラ・ハディド

監督のタラ・ハディドは、世界的建築家ザハ・ハディドを叔母に持つ方。写真家としても活躍しています。5年にわたって現地に通って、寝食をともにして本作を作りました。女性だからこそ映せる女性の世界。

冒頭、手作りの素朴な弦楽器を弾く男。
遠くからアザーン(モスクからのお祈りを呼びかける声)が聴こえてきて、男は手を止め、アザーンに耳を傾けます。
イスラームの教えが暮らしの礎になっていることを感じさせてくれる始まりです。
この弦楽器を弾く姿、季節の節目節目に挿入されています。

物語の中心になるのは、19歳の姉ファティマと妹のカディジャ。
ちなみに、ファティマは、預言者ムハンマドの娘でムハンマドの従弟アリー(後の第4代正統カリフ)と結婚した女性の名前。
カディジャ(Khadīja)は、日本では通常ハディージャと表記されますが、「カ」でも「ハ」でもない、日本語にはない発音。ムハンマドの最初の妻で、ファティマの母親の名前。 

ファティマはラマダン明けに結婚することが決まって、学校をやめます。結婚に怖れはあるけれど、結婚は義務だからと親の決めた相手を受け入れています。(クルアーンに「結婚はすべきもの」と書かれています)
カディジャは、いつも一緒に遊んだりイチジクを積んだりしていた姉と離れるのが寂しくてなりません。弁護士になりたいと思っていますが、姉と同様、結婚のために学校をやめなくてはいけないかもという不安も抱えています。それも父次第。父はカディジャは頭がいいから卒業させたいと実は思っています。

朝5時から食事の用意をする母。ラマダン(断食)月なので、日が昇る前に食事を済ませないといけません。暗い中、食事をする一家。
イチジク、アーモンド、りんご・・・自然の恵みに囲まれて、静かに暮らす人々。
やがて羊が屠られ、断食明けのお祭り。
男たちの太鼓にあわせて歌う女たち。
花嫁に仕立てられたファティマのはにかむ姿。

白い鳩を花嫁に例えて、門出を祝う弦楽器の弾き語り。
カディジャは、町に旅立つ姉を寂しそうに見送る・・・

*******

カディジャが、国王令で男女同権をうたっていることを話題にしています。
モロッコの現国王モハメド6世は、2002年3月に結婚したときに、王妃の写真を公表したことで一躍話題になりました、これまでモロッコ王室では王妃の写真どころか名前も公表しないのが慣例だったのです。ラーラ・サルマ妃が民間出身なのも、一夫一婦制を宣言したのも、これまでなかったことでした。

モハメド6世、いろいろと問題も漏れ聞こえてきますが、これまでの慣習を打ち砕こうとしているのは確かです。
言語に関しても、モロッコの公用語はアラビア語で,第二言語はフランス語でしたが、2003 年からアマジグ語が義務教育の授業に導入され、2011年の憲法改正時に公用語として認められました。

先に述べた上智大学アジア文化研究所での<旅するアジア2015>第6回連続講演会「ベルベルの言語と文化」では、堀内里香さんより、アマジグ語の手ほどきを受けました。
3日間の予定が、補修を含めて5日間。無料で、テキスト付という太っ腹でしたが、2回目にはティフィナグ文字の単語を読ませるというスパルタ教育でした。

ティフィナグ文字は,カルタゴのポエニ文字(新フェニキア文字)と密接な関係がある古代のリビア文字の直系。アラビア文字とは全く異なります。
モロッコの小学校の先生は、アラビア語とアマジグ語の両方を教えなくてはならなくて、母語でない方の言葉を教えるのはかなり大変なのではと思います。
でも、同じ国で暮らす違う民族の人たちが、お互いの言葉を学ぶというのは、相互理解を深める基本。それをまだ頭の柔らかい小学生の時から学ばせるのは素晴らしいことだと思います。

映画の中で、友人(?)がアラビア語でクルアーンかハディースの一節を語る場面があって、「習った?」と聞かれたカディジャが「まだ」と答えていました。アラビア語の授業もあるのですね。
フランス語の絵本を読む場面もあって、3つの言語を習得するのが、モロッコの人たちにとって当たり前のことなのだなぁと感じました。

映画では、ティフィナグ文字のアマジグ語が冒頭や、合間に季節などを表わす言葉として使われています。エンドロールの一番最後だけ、アマジグ語とフランス語が並んでいて、アラビア語はドーハの組織名のみでした。

tifinagh.jpg
IRCAMティフィナグ文字表
出典:http://www.chikyukotobamura.org/muse/wr_africa_10

珍しいアマジグ語を知ることのできる味わい深いドキュメンタリー。
ぜひ、いち早くオンラインでどうぞ!

『ハウス・イン・ザ・フィールズ』 

配給:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/fields/
配信期間:5月1日(金)〜5月28日(木)/価格:1900円(税込み)/視聴期間:2日間
★オンライン配信にて緊急公開中
2020年アップリンク渋谷、吉祥寺ほか全国劇場にて公開予定






posted by sakiko at 21:26| Comment(0) | 映画雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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