2020年10月18日

『異端の鳥』今もどこかで他者が排除されている世界を憂う (咲)

10月13日(火)、『異端の鳥』鑑賞。169分の長尺!
ナチスのホロコーストから逃れるために疎開した少年が差別と迫害に抗い、生き抜く・・・と公式サイトにあり、気になっていた映画。残念ながら試写の案内をいただかなかったので、公開されたら早く観に行きたいと待ち構えていました。日比谷シャンテまで行くつもりでいたら、我が家の最寄り駅高幡不動から多摩モノレールで11分の立川でも同時公開! 立川高島屋の8階に去年6月に出来た「kino cinema立川高島屋S.C.館」。観やすくて、綺麗な映画館です。87席のスクリーン1に、30人強。平日の午後2時過ぎからの時間帯に、なかなかの注目度!?

終始、まさに固唾をのんで見守りました。
森の中、犬を抱えて走る少年。追手に追いつかれ、犬を焼かれてしまいます。冒頭から強烈な映像。
「僕を迎えに来て」と書いた紙を帆にした小舟を川に流す少年。家の片隅にあるピアノで「エリーゼのために」を弾く姿からは、育ちの良さを感じさせてくれます。家の主の女性を叔母さんと呼んでいて、どうやら親から預けられたらしい。火事で家が焼け、叔母さんも亡くなり、居場所を求めて放浪の旅へ。
墓場にはイコンと八端十字架。正教を信じる東欧のどこからしい。
行く先々で、不吉、吸血鬼などと蔑まれ、暴力を受ける少年。
「おまえはロマ(ジプシー)か?」と聞く者もいて、少年がユダヤ人だとはっきりわかるのは、映画が始まって1時間位。
何の説明も読まずに映画を観ると、なぜ少年がこれほどまでに残虐にいじめられるのか解せないことでしょう。少年は見るからに異質とも思えません。それにしたって、ユダヤ人だからという理由で叩きのめしていいはずはありません。
原題は「ペインティッド・バード」。鳥にペンキで綺麗に色付けして、鳥の群れの中に放ったら、鳥たちが寄ってたかってつついて殺してしまう場面があります。まさに異質なものを排除する構図。モノクロの映画なのに、ここだけはカラフルな鳥が目に見えるようでした。
(なお、下記のポスターの鳥は、色を塗られた鳥ではありません)

itannno tori.jpg

ポスターにある、地中に埋められて顔だけ出している少年。
第7回東京フィルメックスで上映されたイラン映画『りんご、もうひとつある?』(2006年)に、そっくりな場面があったのを思い出しました。地中に埋められた男女。目の前にりんごが一つ。そんな画でした。バイラム・ファズィル監督が、「もちろん安全に二人を埋めて撮ったよ」と語っていました。この映画も人間の残虐性を描いたものでした。

『異端の鳥』では、少年が移動するにつれ、ドイツ兵やソ連兵が出てきて、戦争中であることがわかります。村人たちが家財道具をまとめて逃げようとしているところに、兵士たちが押し寄せ、家を破壊し、人々を殺害する場面もありました。今まさに火を噴いているアルメニアとアゼルバイジャンの人々のことが頭をよぎりました。戦争で被害にあうのは庶民・・・ 虚しいです。

ところで、『異端の鳥』で使われている言語は、ドイツ兵やソ連兵はそれぞれの母国語ですが、その他の人々が話しているのは人工言語「スラヴィック・エスペラント語」。
原作のイェジー・コシンスキの小説の中で、物語の舞台は「東ヨーロッパのどこかで特別な言葉が話される場所」とされ、明確に述べられていないことから、舞台となる国や場所を特定されないようにヴァーツラフ・マルホウル監督が配慮したもの。

暴力の応酬が続く『異端の鳥』ですが、中には少年を救う人物も出てきて、人間の良心も見せてくれます。自分とは異質な他者を憎むのではなく、違いを認め思いやる心があれば、世界は平和なのにと思わずにはいられません。

モノクロの映像が素晴らしかったですが、内容はかなりつらいものでした。
最後には希望が見えて、ほっ!
ぜひご覧くださいとは言い難いですが、見ごたえのある忘れられない映画です。


シネジャの作品紹介

ミッキーの毎日映画三昧


異端の鳥(原題:The Painted Bird )
監督・脚本:ヴァーツラフ・マルホウル
原作:イェジー・コシンスキ「ペインティッド・バード」
出演:ペトル・コラール、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、バリー・ペッパー、ウド・キアー

2018年/チェコ・スロヴァキア・ウクライナ合作/スラヴィック・エスペラント語、ドイツ語ほか/169分/シネスコ/DCP/モノクロ/5.1ch/
配給:トランスフォーマー
COPYRIGHT @2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN ČESKÁ TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVÍZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKÝ
公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/
★2020年10月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー




posted by sakiko at 04:05| Comment(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: