イスラームと欧米社会との共生を考える映画のオンライン上映会。
1月30日(土)は、内戦を逃れてアメリカに移住したシリアの少女の成長を追ったドキュメンタリーでした。
『Dalya's Other Country』
ジュリア・メルツァー監督
2017年、75分
◆高橋 圭さん(東洋大学)より趣旨説明と映画の登場人物等について紹介
昨日のフランスに亡命したアルジェリア女性のドキュメンタリー『マダム・ラ・フランス』に続き、欧米におけるムスリムと非ムスリムの共生を考える上映会。
本日の映画『Dalya's Other Country』は、アメリカで抑圧されているムスリムの話ではない。
2012年、内戦を逃れてシリアのアレッポからアメリカのロスアンゼルスに移住した家族を追ったドキュメンタリー。
少女ダリヤの高校生活から卒業までを追った成長物語でもある。
両親はかつてアメリカで10年暮らしたことがあって、市民権も持っており経済的に裕福。シリア難民の「着の身着のまま」というイメージではない。
ダリヤの家族構成:
母 ルダイナ シリアでは専業主婦
兄 ムスタファ 内戦前にアメリカの大学に進学し、そのままアメリカに住んでいる。大学を出て映画製作をしている。
父 ムハンマド・ハサン 現在、一緒に暮らしていない。アレッポではオリーブオイルの工場を経営していた。
ジュリア・メルツァー監督について:
ドキュメンタリー作家。かつて、ダマスカスで女子クルアーン学校のドキュメンタリーを撮るため、シリアに長期滞在していたことがある。内戦でシリアに行けなくなり、前作の時に一緒にやっていた兄ムスタファと本作を共同製作。ジュリアは非ムスリムだが、ムスリムであるムスタファの視線も入っている。
*映画*
2012年、戦争が勃発し、ダリヤは母ルダイナと共にアレッポからロサンゼルスに避難。
父は二人目の妻をルダイナに内緒で娶ったことが判明。アメリカには一緒に来ず、トルコのメルスィンに逃れた。
ダリヤは私立の聖家族カトリック高校に入学し、スカーフを被って登校する。ムスリマはダリヤ一人。
2014年、スカーフを被ってバスケットボールをするダリヤ。かつてはスカーフを被ってスポーツができると思っていなかった。
母ルダイナは息子の勧めで大学に通うようになる。
兄が父をアメリカに呼ぶ。二人目の妻とは別れたというが、ルダイナはもう彼を愛してない。
父に、「死んだらどこに埋めてほしい?」と尋ねるダリヤ。
「メルスィンは自分にとってアレッポのようになっている」と答える父。
2015年 学校に東欧出身のムスリマの女性が来て話をしてくれる。
「イスラームについて何も知らなかったけれど、アメリカに来て学んだ」と語る彼女に、ダリヤは感化される。
2017年1月 トランプが大統領就任早々、ムスリムの多い特定の国からの入国を禁止する。
「パリが美しくないのはムスリムのせい」とトランプがテレビで語るのを聞いて、母ルダイナが偏見を持っているとつぶやく。「一部のムスリムの行動なのに。キリスト教徒が悪いことをしても、彼はキリスト教徒皆が悪いとは言わない」
母、スカーフの代わりに帽子を被って外出する。スカーフを見て攻撃されると困るからと。
ダリヤ「ヒジャーブは私の人生。自分がどこから来たのか、自分がどういう人なのかを表すもの」
卒業式に父が来る。
「近い将来、結婚するつもりはない。父の悪い部分をほかの男性も持っていると思ってしまう」と語るダリヤ。
その後、父はトルコのメルスィンで3人目の妻を娶る・・・・
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アメリカに来たばかりの頃は、あまり英語も出来なかったダリヤが、学校で多様な民族の同級生たちと学び、アメリカ社会に馴染んでいきます。トランプのムスリム排除の言葉にもめげず、ヒジャーブ姿を貫き、生き生きと将来の夢を語る姿が眩しかったです。
イスラームでは、4人まで妻を娶っていいとはいえ、第一夫人の了解も得ないで、第二夫人と結婚してしまったお父さんに、娘としては複雑な思い。男性不信にもなるでしょう。そんな娘の思いも知らず、懲りずに3人目と結婚してしまうお父さん!
ムハンマドが4人まで娶ってもいいと言った意図は別だったはず!
それはともかく、バイデン大統領が無事就任し、トランプの出した特定のムスリムの多い国からの入国制限を撤廃する大統領令に署名してくれて、ほっとしました。 トランプの4年間に、ムスリムへの攻撃がより組織化したらしいのですが、ムスリムに限らず人種差別的なムードを高揚させた功罪は大きいです。 お互いに違いを認めて共生する社会になってほしいものです。 (景山咲子)
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巣ごもり上映会
2021年1月30日(土)14:00〜17:00
『Dalya’s Other Country』
ジュリア・メルツァー監督(2017年、75分)
詳細:http://islam-gender.jp/news/189.html
主催/共催
◆科研費基盤研究(A)「イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究」(代表:長沢栄治)
◆科研費新学術領域研究「グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立」B03班「文明と広域ネットワーク:生態圏から思想、経済、運動のグローバル化まで」(代表:酒井啓子)
◆中東映画研究会
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