私は小学生の頃から探検記や冒険小説、20世紀の新発見など未知の世界を知ることが好きで、小学校高学年頃には「ロビンソン・クルーソー」や「十五少年漂流記」、アマゾン河をめぐる探検記や冒険旅行などを多く読み、アマゾン河に行ってみたいと思っていた。中学生の時にはジュール・ヴェルヌの「八十日間世界一周」や、ダーウインの「ビーグル号航海記」などを読んだのをきっかけに、いつか世界一周をしてみたいと思った。そんなことから、大人になってからは旅行や登山、山スキーなどに出かけるようになった。
1970年に就職した夏、北アルプス燕岳〜槍ヶ岳の「表銀座コース」という登山コースで北アルプスに行った私は、すっかり山登りが好きになり、それから北アルプスや、八ヶ岳、尾瀬、南アルプス、中央アルプス、月山や、鳥海山など東北の山々にも登った。でも私の登山は、山登りそのものが好きというのではなく、高山植物や山で見る景色、下界では見ることがないブロッケン現象など、山の自然の不思議さに興味を持った。そんなこともあり、この『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』はとても興味深い作品で、まさに私自身が興味をもった足跡をたどる旅でもあった。
でもどうして、この作品を観るまで「ブルース・チャトウィン」の名前を知らなかったのだろう。彼が「パタゴニア」で作家デビューしたのが1978年ということで、まさに私が山にかなりハマっていた頃だし、南米にも興味を持っていたのに、彼の名前に見覚えはない。もしかしたら、名前は覚えていなくても、図書館や本屋で本を手に取っていたのかもしれない。世界のあちこちを放浪して本を書くという、私もそんな風にして生きてみたかった。
そんな私が、ピースボートの世界一周の旅に出たのが2018年12月。アフリカと南米に行ってみたかったので、シンガポール→インド洋→アフリカ→南米→太平洋→日本という南まわりのコースにした。この映画の冒頭に出てきた「パタゴニア氷河」にも行った。2月というのは南半球では夏だったのにとても寒く雪も降ったりした。氷河はいくつもあったけど船から見る氷河だったので、ドローンで撮った氷河の上空からの映像は、これまで見たことがないような表情を見せてくれた。
2019年2月20日にアルゼンチンのティエラ・デル・フエゴ島にある人口約7万人の都市ウシュアイアに着いた時は、ここが南極に一番近い都市だったのに、この映画では南極に一番近い都市はチリのナバリノ島のプエルト・ウィリアムズが最南端と出てきて、「え!そうなの?」と思い、調べてみたら、2019年3月にプエルト・ウィリアムズが市になり、ここが最南端の都市になったとのこと。私がウシュアイアに行ってから、1か月もたたないうちに「南極に一番近い都市」は変わっていたということですね(笑)。この記事を書くにあたってネットを調べていたら下記記事をみつけた。この中に「2019年3月プエルト・ウィリアムズが市になり、ウシュアイアに変わり、ここが南極に一番近い最南端の都市になった」とあった。
*死ぬまでに一度は訪れたい、ブルース・チャトウィンも愛したパタゴニア
ウシュアイアでは蒸した蟹を食べに街に行ったけど、4人で食べた大きな蟹のおいしさが忘れられない。そういえばその蟹の写真は撮ってこなかった。残念.。また、ウシュアイアの港からは様々なクルーズ船ツアーが出ていて、ダーウインがビーグル号で通ったという「ビーグル水道」にも行くことができた。いろいろな島があり、オタリアやマゼランペンギン、ウミウのコロニーなどを見ることができた。そして「エクレルール灯台」というのを見たけど、この灯台、ウオン・カーワイ監督の『ブエノスアイレス』に登場した灯台だったというのも、この記事で知った。
ウシュアイアの博物館に行った時、この地に暮らしていたヤーガン族の写真を見たけど、この映画でもヤーガン族のことが出てきて、やはりプエルト・ウィリアムズにも博物館があることを知った。ヤーガン族はこの極寒の地に住んでいたにも関わらずら裸族で、毛皮をまとっていただけとのことだったけど、よく生き延びてきたなと思った。日本人と同じようにモンゴロイドに起源をもつ民族だったらしい。
ここからマゼラン海峡を経て、パタゴニアにたどり着くのだけど、ブルース・チャトウィンが訪ねたトレス・デル・パイネ国立公園にある3102mの岩峰セロ・トーレが見えるところをヘルツォーク監督も訪ねている。私もこの岩峰が見えるところまで行ってみたかった。このセロ・トーレへ挑戦した登山家を描いた作品が『クライマー パタゴニアの彼方へ』で、ここに挑んだ若きクライマーデビッド・ラマにインタビューした記事がシネジャHPにある。ここは世界中の登山家が憧れる岩峰である。
*『クライマー パタゴニアの彼方へ』デビッド・ラマインタビュー
チャトウィンはオーストラリアの原住民アボリジニの神話に魅せられ中央オーストラリアを訪ね「ソングライン」を書きあげたが、私が初めて行った外国がオーストラリアで(1990年)、ここでアボリジニの人たちが「ディジュリドゥ」という尺八を大きくしたような楽器(150pくらい)を吹いているのを見て、思わず買って帰りたいと思ったのでした(笑)。ズン・ズン・ズンとまるで地響きのような音を鳴らすような楽器でしたが、耳に響きました。そんな経験があったので、この「ソングライン」という考え方にも興味を持ったのですが、チャトウィンが調査をしたということを知る前に、『大海原のソングライン』(2019)という作品が2020年に公開され、太平洋を結ぶこのアボリジニの壮大な「ソングライン」のことを知りました。
それにしても、この映画でブルース・チャトウィンのことを知り、私もこんな人生送りたかったなと思ったりしました。今やヨタヨタ歩くような身になってしまったので、もう冒険はできないけど、これからもいろいろなところに出かけて、素晴らしい景色に出会う経験をしたいな。