2020年06月07日

『その手に触れるまで』 ダルデンヌ兄弟が描いたイスラーム過激派に洗脳された少年  (咲)

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カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した『その手に触れるまで』は、ダルデンヌ兄弟が、過激なイスラームの思想にのめり込んだ少年を描いた作品。2月末から試写が始まっていたのに、なかなか観にいけないでいるうちに、緊急事態宣言が出て、試写室はお休みに。
公開まで待とうと思っていたのですが、これはやっぱり気になる・・・と、オンライン試写で拝見させていただきました。

何より、イスラーム教徒でないダルデンヌ兄弟が、どのように描いたのかが一番の関心事でした。細部にわたって、イスラームにも様々な解釈があることが散りばめられていて、イスラーム世界において過激な思想が一般的なものでないことを伝えようとする気遣いが感じられました。

*物語*
ベルギーで暮らすモロッコ移民の家庭で育った13歳のアメッド。放課後クラスのイネス先生から別れの握手を求められて、「大人のムスリムは女性に触れない」と拒否する。
母は、「イマーム(モスクの導師)に洗脳されて以来、礼拝ばかり」と嘆く。ちょっと前まではゲーム好きの普通の少年だったのに!
イネス先生がアラビア語の歌謡曲を教材にすることを提案したとイマームに伝えると、「歌で学ぶのは冒涜。教師は背徳者」と言われ、アメッドはイネス先生を聖戦のターゲットとすることを決意する。
殺人未遂に終わるが、アメッドは少年院に送られる。
更生プログラムとして農場での実習に通い、少女ルイーズから手ほどきを受けるうちに、アメッドの気持ちが少しずつ変化していく・・・


*注:主人公の名前 アメッドという表記、とても気になっています。 ここでは、プレス資料に従いました。Ahmed アフメド、アラビア語表記からだと、アフマドと、いずれにしても h の音を発音します。 フランス語だと hは発音しないからか??  また、ッ と詰まりません。
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このあとの結末をどう解釈していいのか、いまだ咀嚼できてなくて、もやもやしています。
観た方と語り合いたい気分です。

そも、アメッドがなぜここまで過激なイスラームの解釈を信じるようになったのか、多くは語られていません。殉教した従兄に見習ってサウジアラビアのメディナに留学したいという言葉から、従兄に感化されたのも一つの理由だと推測できます。
さらに、イマームが殉教した従兄を見習えと炊きつけているのでしょう。
何があっても礼拝の時間をきっちり守りたいアメッドですが、事情があれば別の時間に礼拝してもいいはずです。
イネス先生の「クルアーンには、他の宗教との共存を説いていると父から教わった」という言葉に対し、「イマームからユダヤとキリスト教徒は敵だと教わった」と語る場面がありました。ユダヤとキリスト教徒は同じ啓典の民とされています。アッラーは、アラビア語で神様(唯一神)のこと。アラブ人のキリスト教徒にとっても、神様はアッラーなのです。

あと、興味深かったのが、放課後クラスでアラビア語の歌謡曲を教材にすることについて親たちが語り合う場面。
クルアーンに出てこない日常に使う現代的なアラビア語を学べば就職にも有利という者。
一方で、クルアーンを学ぶのも大事。アラビア語を学ぶのは良い信徒になるためという者。
クルアーンは、7世紀に古典アラビア語で書かれていて、今もそのまま変わっていません。日常に使う文語であるフスハー(正則アラビア語・現代標準アラビア語)は。古典アラビア語を基盤に、現代社会に対応する語彙を加えたもの。

少年院に着いた時に、持っていたアラビア語の本をアラビア語のわかる係官がチェックします。「ハディース(預言者ムハンマドの言行録))はOKだけど、信憑性の薄いものもある。あとで話そう」と言われます。
ハディースは、ムハンマドが日常生活の中で語った言葉やその行動について様々な人が見聞きしたことの言行録。礼拝の仕方から、日々の暮らしでの振る舞い、戦争など、多岐にわたってムスリムとしてあるべき姿の指針になるものなのですが、原則口伝の上、イスラームの伝播と共に加えられたものもあって、信憑性の薄いものもあるという次第。
クルアーンやハディースをどう解釈するかで、同じムスリムでも行動が変わってきます。過激派は自分たちの解釈に従って行動しているというわけです。

アメッドの父親は家族を捨てて出て行ったらしいのですが、父親がいなくなってから、母親はスカーフをしなくなり酒浸り。姉も肌をかなり出した服装。それに対しても、アメッドは文句をいいます。恐らく、父親は敬虔なムスリムとして、妻や子どもに常日頃さまざまなことを押し付けていて、アメッドはそれを見て育ったという下地もあったのかもしれません。

ところで、4月末にNHK BS世界のドキュメンタリーの再放送で「テロの街の天使たち 〜ブリュッセル6歳児日記〜」(英題:Gods of Molenbeek、フィンランド制作、2019年)を観ました。ベルギーのイスラーム教徒が多く住むモレンビーク地区に住む少年たちを追ったドキュメンタリーで、モレンビークはダルデンヌ兄弟が本作の舞台に想定した場所。
「テロは私たちイスラーム教徒が起こしたものではありません」のアナウンスが流れていたのが印象的でした。
ヨーロッパでは、社会に不満のある若者などがイスラームに改宗し、過激な行動に走ることもあると聞きます。移民のムスリムの家庭に生まれて、差別や偏見を受けて過激思想に走る若者もいるでしょう。そういった人たちを本来のイスラーム教徒とは思いたくない気持ちもわかります。

◆映画の背景 (公式サイトより)
ベルギー、ブリュッセル西部に位置するモレンベークは、10万弱の人口のうちイスラム教徒が5割程度、地域によっては8割を占め、その多くがモロッコ系。(2016年時点)
そこに暮らす一部の過激派のイスラム教徒や、モレンベークを拠点として利用した過激派が、15年のパリ同時多発テロや16年のブリュッセル爆発に関与した。クリント・イーストウッド監督が『15時17分、パリ行き』のタイトルで映画化したタリス銃乱射事件の犯人もブリュッセルから列車に乗車している。ここ数年、ブリュッセルはヨーロッパにおけるテロリズムの交差点と化している。

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ダルデンヌ兄弟は、本作で過激なイスラーム思想に捉われた少年を主人公にしましたが、13歳という過敏な年齢。何かの思想や物にのめり込んでしまった青少年をどう救うかという普遍的な物語と捉えることもできそうです。


『その手に触れるまで』
原題:LE JEUNE AHMED 英題:YOUNG AHMED
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ(『ある子供』『ロルナの祈り』)
出演:イディル・ベン・アディ、オリヴィエ・ボノー、ミリエム・アケディウ、ヴィクトリア・ブルック、クレール・ボドソン、オスマン・ムーメン

2019年/ベルギー=フランス/84分/1.85:1 
後援:ベルギー大使館  
配給:ビターズ・エンド
c Les Films Du Fleuve – Archipel 35 – France 2 Cinéma – Proximus – RTBF
公式サイト:http://bitters.co.jp/sonoteni/
★2020年6月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!




posted by sakiko at 17:55| Comment(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月24日

『イップ・マン 完結』公開に向けて、お家で過去3作 (咲)

前にも書いた通り、テレビやパソコンで映画を観るのはあまり好きじゃないのですが、ムービープラスで、ドニー・イェン演じるイップ・マンのこれまでの3作を放映するとわかって、これは観なくてはと頑張りました。

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ウィルソン・イップ監督がドニー・イェンとタッグを組んで描いたイップ・マンの4作目にして最終章である『イップ・マン 完結』(原題:葉問4 Ip Man4)は、本来なら5月8日(金)公開予定でした。それにあわせての企画なのでしょう。
首都圏での外出自粛も解除されそうなので、近いうちに公開日も決まりそうですね。

下記に決まりました!
★2020年7月3日(金)より新宿武蔵野館ほかロードショー

公式サイト:https://gaga.ne.jp/ipman4/


◆『イップ・マン 序章』(原題:葉問 Ip Man)2008年製作。
1930年代の中国広東省佛山。イップ・マンは裕福な家で育ち、詠春拳の達人として人々の尊敬を集めていましたが、日中戦争勃発で邸宅を日本軍の司令部として使用されることになってしまいます。財産も没収されたイップ・マンは、生きるために慣れない力仕事をすることに・・・ その後、空手の名手である日本軍将校の三浦と対決し、勝ったがために撃たれてしまいます。 (日本人としては、どうにも居心地の悪い展開)

◆『イップ・マン 葉問』(原題:IP MAN 2)2010年製作
1949年、イップ・マンは英国統治下の香港に移住し、詠春拳の武館を開こうとしますが、なかなか思うようにいきません、武館が軌道に乗ってからも、様々な問題が襲い掛かります。
香港の人々の反英感情が高まる中、イギリス側の面子を保とうとする意向で、イップ・マンはイギリス人ボクサーとの生死を賭けた闘いに挑むことになります。
(これまた、なんともつらい展開)

『イップ・マン 序章』は、2010年10月の第23回東京国際映画祭で上映された後、すぐには公開されていません。2011年2月12日に公開された、『イップ・マン 葉問』が新宿武蔵野館で観客動員が5000人を突破したため、同劇場で2月19日に一般公開されたそうです。
映画祭で観たのか、劇場公開時に観たのか、思い出せません・・・
どっちにしても、そんなに前なの?と、びっくり。ついこの間観たような気がします。


◆『イップ・マン 継承』(原題:IP MAN 3)2015年製作
今日、録画しておいたのをやっと観ました。
実は、奥様とのエピソードが描かれたIP MAN 3が、一番好きです。これまでの2作品でも、端々にイップ・マンの奥様への優しい心遣いが描かれていますが、本作では、癌に冒された奥様との最後の日々を描いているので、物語の核になっているといえます。
詠春拳にはげむイップ・マンは、もちろん素敵ですが、奥様と手をとりあってダンスする姿は実に優雅です。

ドニー・イェンを初めて認識したのは『ワンス・アポン・ア・タイム 天地大乱』(1992年、ツイ・ハーク監督)でした。リー・リンチェイ(ジェット・リー)演じる黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)の敵役で、眼光鋭く、嫌な悪人に見えたのですが、決めポーズがリーリンチェと負けず劣らず華麗で、「この人、凄い!」と印象に残りました。

礼節をわきまえ、物腰が柔らかいながら、詠春拳の技の鋭さが際立つドニー・イェンのイップ・マンは、ほんとに素敵です。まさにはまり役だなぁ〜と惚れ惚れします。

そして、これから公開になる『イップ・マン 完結』は、病に冒され、余命宣告を受けたイップ・マンが、一人残される息子の行く末を案じて、アメリカに息子の居場所を探しにいく物語。愛弟子のブルース・リーとも再会します。イップ・マンシリーズの最終章も涙なしには観られません。

『イップ・マン 完結』公式サイト:https://gaga.ne.jp/ipman4/
シネジャ作品紹介



posted by sakiko at 22:26| Comment(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月26日

松本卓也監督 中編作品上映会と試写(白)

25日(土)
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上映会のうち観る予定の『欲望の怪物』は17時から5丁目のアットシアターで。赤ちゃんを抱っこして受付にいらっしゃるのは、松本監督夫人かな。6か月くらい?赤いほっぺで可愛い!いつのまにかパパになられていました。
作品は「欲望が叶う」という願掛け人形(粘土職人よっちゃん作)を取り合う大人たちの話。主演の加藤万里奈さんは「口笛演奏家」で、トークの後ギターとライブしてくださいました。こんな素敵な口笛を聞いたのは初めて。

松本監督には2011年の『花子の日記』でインタビューして以来、何度かお目にかかっています。2017年『ミスムーンライト』取材のときは、おしゃべりに花が咲いて別れた後で、写真を撮り忘れたのに気づいてご本人に送っていただくという失態を演じました。このとき代わりにトップ用の画像を撮ってくださった後藤龍馬さんに、帰りしなに会えてやっとお礼を言うことができました。2年越し…。

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この取材のときに「次はバイオレンス映画」と聞いていた作品が試写の『ダイナマイト・ソウル・バンビ』。どんなバイオレンスかと想像もつきませんでしたが、映画を製作する映画でした。松本監督扮する山本監督(間違えそう)は、自主映画を作ってきて、初めて商業映画のスタッフ・キャストとコラボします。気合が入りすぎて物言いがきつく、暴走しがち。周りがハラハラしています。そのきしみの過程をメイキングとして撮影していく先輩のカメラで語っています。この先輩が「腹に一物、手にカメラ」で腹黒そう。何か起きそうな予感。これは中編でなく、劇場にかけたい長編。いつもの松本監督作品と一味違いますが、誰の真似でもないオリジナル。一般上映なるといいですね。

上映会に行く前に、新宿のTOHOシネマズで『キャッツ』(吹き替え版)を観ました。
ミュージカルは着ぐるみにメイクですが、映画実写版はCGを駆使しています。全米ではコケたとか、いい評判が少ないようでしたが、新しい生き物「猫人間」に目が慣れるか慣れないかかなぁ。私はそんなに違和感ありませんでした。吹き替え版はヒロインの葵わかなさんはじめ、みんなうまいです。ウィンくんのミストフェリーズ(いい役!)も良かったし、2月からの「ウェスト・サイド・ストーリー」が楽しみ〜。(白)
posted by shiraishi at 21:04| Comment(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月19日

「華影天地 電影倶楽部の選んだ中国語圏映画100本」を紹介(暁)

シネマジャーナル読者の小林美恵子さんが作った多摩中国語講習会創立50周年記念誌「華影天地 電影倶楽部の選んだ中国語圏映画100本」を紹介します。

多摩中国語講習会(多摩中)は 1969 年、立川市で発足しました。発足当時は、まだ日中の国交回復以前、中国では文化大革命中という時期で日本では一般には中国に親しむという意味での関心がそれほど高い時期とは言えませんでした。立川周辺に中国語教室というようなものも存在しなかったこの時期に中国語を通して中国を学びたいという強い意志に支えられて、多摩中は船出をしたのです。【多摩中国語講習会の歩み】より

この多摩中国語講習会の課外授業として2003年に「多摩中電影倶楽部」という中国語圏映画の上映会が発足し、15年続いた上映会が100回になり、記念誌「華影天地 電影倶楽部の選んだ中国語圏映画100本」を作ったそうです。「華影天地」は、その上映会の時に作品を紹介するため発行していたニュースで、それをまとめたのがこの本です。2,3ヶ月に1回の上映会ですが、100回も続いたというのがすごい! 映画愛です。中国、香港、台湾、シンガポールなどを舞台にした作品で、中華圏の監督が作った作品だけでなく、日本人が作った作品も上映されています。日本での劇場公開作を中心に映画祭で上映された作品、あるいは現地でしか上映されていない作品まで、様々なジャンルの映画上映をしてきた記録でもあります。タイトル、原題、製作年度、スタッフ、キャストなども記載され、中華圏映画の情報辞典のような形にもなっています。

華影天地 電影倶楽部の選んだ中国語圏映画100本

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この記念誌を希望の方がいましたら、送付先記載の上、下記、宮崎のアドレスまで連絡ください。
xiaomei@tiara.ocn.ne.jp

電影倶楽部 上映情報
https://tamachu-huayingtiandi.blogspot.com/


posted by akemi at 21:53| Comment(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月16日

2019年の興収ベストテンの映画、1本も観ていなかった!(暁)

2019年1月7日の朝日新聞を読んでいたら、国内映画興収、2019年は過去最高、「映画大ヒット御礼」「100億円超続々」とあり、2500億円を超える興収見通しで、入場者数も最多の1億9000万人超になる見込みとのこと。そして、この記事とともに、2019年に公開された映画の興行収入順位が発表されていた。
その興収ベストテンの作品を見て驚いた。私は1本も観ていない!!
去年観た映画の集計はまだ出していないけど200本くらいは観ているはず。
それなのに、2019年のベストテン作品は観ているものがなかった。この数年、1本くらいは観ているのにと思った。ま、観たい映画の趣向が違うからしょうがないとは思うけど、ベスト20まで見たら、さらに驚き。ベスト20までも1本も観ていない!!! メジャーな作品はあまり好きではなく、映画の内容によって観るという趣向だからこうなるのだろうけど、ベスト20まで観ていないとは。『アラジン』行けたらとは思っていたけど行かれずだった。『アナと雪の女王2』は試写が来ていたけど、結局観に行けなかった。
シネマジャーナル本誌でのベストテン特集がなくなってから、もう2年くらいベストテンを出してなかったけど、2019年に観た映画、どうだったか見直してみなくては。
2019年、興収ベストテンの作品は下記作品だそう。これを見ると、アニメ作品がほとんど。アニメはほとんど観ない私としては、ベストテンの作品を1本も観ていなかったことに納得。アニメはよっぽど興味ある内容か、機会があれば観に行くという程度。それにしても、皆さんそんなにアニメが好きなんだなと改めて関心。

順位 タイトル 監督 公開日

1位 天気の子 監督:新海誠 2019/07/19
2位 アラジン 監督:ガイ・リッチー 2019/06/07
3位 アナと雪の女王2 監督:クリス・バック ジェニファー・リー 2019/11/22
4位 トイ・ストーリー4 監督:ジョシュ・クーリー 2019/07/12
5位  名探偵コナン 監督:永岡智佳 2019/04/12
6位  ライオン・キング 監督:ジョン・ファヴロー 2019/08/09
7位 アベンジャーズ エンドゲーム
   監督:アンソニー・ルッソ , ジョー・ルッソ 2019/04/26
8位 キングダム 監督:佐藤信介 2019/04/19
9位 劇場版 ONE PIECE STAMPEDE 監督:大塚隆史 2019/08/09
10位 ジョーカー 監督:トッド・フィリップス 2019/10/04






posted by akemi at 06:50| Comment(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする