『標的』は、1991年、初めて「私は元慰安婦だった」と名乗り出た金学順(キム・ハクスン)さんのことを報じた元朝日新聞記者の植村隆氏へのバッシングが2014年から始まったことと、それに対して闘い続ける植村さんと支援者の姿を追った西嶋真司監督作品で、その日、二人がゲストだったので、(白)さんは午前、私は午後に行きました。(白)さんによる記事は下記参照。
*スタッフ日記 第63回 憲法を考える映画の会『標的』(白)
*『標的』作品紹介
これがきっかけで、(白)さんと私は、この「憲法を考える映画の会」を知り、主催者の花崎哲さんにインタビューしたのですが、この記事は、4月末発行のシネマジャーナル本誌105号に掲載されます。本誌では花崎哲さんインタビュー記事(白)さん、『標的』の紹介は私が担当しています。ということで本題に。
第64回 憲法を考える映画の会 「憲法映画祭2022」
4月23日(土)〈若い情熱と共に闘う〉
(10時開場・10時20分開会のあいさつ)
10:30〜 『グレダひとりぼっちの挑戦』
13:00〜 『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』
15:00〜 『私たちの生まれた島 OKINAWA2018』
17:45〜 『島がミサイル基地になるか 若きハルサーたちの唄』
19:15〜 『バークレー 市民がつくる町』
4月24日(日)〈改憲=日本軍がまたやってくる〉
(9時半開場)
10:00〜 映画『日本鬼子 リーベンクイズ 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』
13:30 講演 「緊急事態条項・改憲の危険」
弁護士 永井幸寿さん
15:30 映画 『映画 日本国憲法』
17:15 映画 『コスタリカの奇跡 積極的平和国家のつくり方』
入場料:一般:一日券2500円 1回券(1作品 or 1講演)1000円
学生・若者(〜30歳)1日券1500円・1回券500円
ところ:武蔵野公会堂ホール
私にとっては地元(武蔵野市)での開催なので、全部行きたいところではありましたが、日曜日がシネマジャーナルHP更新日で、さらに本誌編集にかかりきりでHPの作品紹介が遅れていたので、23日は昼まで作品紹介が終わらず、ひと眠り(2時間半!)しての「憲法映画祭2022」への参加になりました。未見の後半3本を観たかったのですが15時からの『私たちの生まれた島 OKINAWA2018』は起きれずでした。残念。ということで観たのは17:45〜の『島がミサイル基地になるか 若きハルサーたちの唄』と、19:15〜『バークレー 市民がつくる町』。どちらも素晴らしい作品でした。
『島がミサイル基地になるか 若きハルサーたちの唄』
湯本雅典監督作品 (2021年制作 60分 )
※ハルサーとは「畑人」の意味
石垣島では、2019年3月から陸上自衛隊ミサイル基地の建設が始まっていました。防衛省は「中国の脅威」を理由に、自衛隊配備の空白地帯をなくすためといい、南西諸島における基地建設を急ぎ進め、すでに与那国島、宮古島、奄美大島、そして沖縄本島には基地が配備され稼動しているそうです。そして石垣島でもミサイル基地配備のための工事をしています。
住民に説明も合意もなく進められているこの工事に対し疑問を持った若者たちが島の人々の合意が得られていないことに対し住民投票に対する署名運動を始めました。結果、わずか1か月で石垣島の有権者の3分の1以上の署名が集まったのに、「合意のための投票」は議会で否決され、しかも「有権者の4分の1以上の請求で市長は所定の手続きを経て住民投票を実施しなければならない」とされているにもかかわらず、それも市長は拒否。若者たちが大事にしたかったのは「話し合って決めましょう」ということなのに。この状況を受け、若者たちは、裁判に打って出ました。しかし裁判所は地裁、高裁、最高裁と請求を却下、棄却され門前払い。でも闘いは続いています。
湯本雅典監督は沖縄で映画を撮り続けてきた方のようですが、石垣でこの音楽活動をしている「ハルサーズ」のメンバーと出会い撮影を始めたと語っていました。石垣島在住の金城龍太郎さん、伊良皆高虎さん、宮良央さんの3人は高校時代からの仲間で、「ハルサーズ」というバンド名で音楽活動をしていますが、「ハルサー」とはウチナーグチ(沖縄の言葉)で「農民」とのことだそうです。彼らは、マンゴー栽培や牛飼い、ハーブティー加工販売といった農業に従事しています。マンゴー栽培をする金城龍太郎さんの家から数百メートルも離れていないところで自衛隊ミサイル基地建設が始まり、合意を得ての工事なのかどうかということに疑問を持ち、このような活動を始めたようです。それにしてもこの3人のユーモアあふれるキャラクターがいい。そして生活の中から根差した言葉は、地に足がついたものを感じ、胸に響きました。彼らは活動家ではなく生活の中から生まれた疑問を示しているのです。
この映画で描かれていたのは「憲法と地方自治の破壊が日本の西端の島で進んでいる」ということ。この石垣島を始め、南西諸島で進められている自衛隊の基地のことは、全国ニュースではなかなか出てこないし、よほど沖縄のことに関心がある人でなければ知らないことがいっぱい出てきました。私自身、沖縄関係のドキュメンタリー作品はほとんど観ているのに、今まで観てきたのは米軍基地と沖縄の人とのことを描いた作品がほとんどで、自衛隊と沖縄の人とのことを描いたものは映画でもニュースでもほとんど目にしたことがないということに気がつきました。
湯本監督は、対話を求め、地方自治のあるべき姿を追う若者たちの生き方を追っています。石垣市の市長選挙のことも語っていたから、それも撮っているようなので、引き続き次回の状況もぜひ観てみたいです。
『バークレー 市民がつくる町』
取材・構成:松原明 佐々木有美(2002年制作 35分)
これは20年前に作られたドキュメンタリーです。アメリカ西海岸のバークレー市議会で「空爆反対」決議をしたことを描いたもので、それに至ったバークレー市民と市議会のことや「民主主義とはどのように築いていったらいいか」ということに参考になりそうなことが描かれています。9・11事件後、全米世論の9割以上がアフガン空爆を支持する中で、唯一、反対決議をあげた町はバークレーだけでした。なぜ、決議が可能だったのか。民主主義のルールが根づいていた住民参加の町作り。多様な市民が暮らし、長い年月をかけ町を築いてきたことが伝わってきます。
冒頭、アフガン空爆に対する審議の場面が出ます。空爆開始から9日後の2011年10月16日、バークレー市議会の議場は多くの市民で埋まり「ただちにアフガン空爆を停止し、暴力の連鎖を断ち切ることを求める採決をとります」と議長が宣言したアーカイブ映像が流れ、議員が一人づつ「賛成」や「棄権」というシーンが流れます。そして、賛成5、棄権4という結果でした。反対はありませんでしたが、棄権が4もあったんだと思いました。それにしても議員が8人、市長と合わせて9人の市議会だったので思ったより少ない議員数にびっくりしました。
「空爆反対」決議に対して、全米各地、外部の町の人から何千という批判や脅迫じみた脅しが寄せられたことが語られますが、この決議を提案した議員が「決議を上げて良かった。あの時、誰もが言うことを怖れていたから」、そして、決議を提案した理由について「町中で、数千人の市民が空爆反対のデモを行っていた」と語っていました。その方は3,40代の車いすに乗った女性でした。
バークレーの名は、公民権運動、ベトナム反戦運動をリアルタイムで知っている私の世代からすれば、この頃、よく聞いた市の名前だったので、「空爆反対」決議をしたことについては「この町だからこそよね。やっぱりね」という感想を持ちました。
バークレー市議会は、どのようにして市民参加型になっていったか。より多くの市民が参加できるように、市議会は夕方から始まる。議会審議の前に「パブリック・コメント」という、市民が発言できる時間があって市民の誰もが自分の意見や要望を議員や市民に訴えることが出来る制度があるようです。小学生が出てきて意見を言っていましたが、子供でも意見を言うことが可能ということにびっくりしました。24日に上映される『コスタリカの奇跡 積極的平和国家のつくり方』の中にも、子供が議会かどこかで意見だか提案をするようなシーンがあったような気がします。こうした市議会のやり取りやニュースは、市民による自主運営のKPFAというラジオ局が伝えているのが紹介されていました。スタッフは30人だけど倍以上の市民ボランティアが参加し、運営を支えていました。経営危機も語られ、それを乗り越えて存在していることも出てきました。
議論して決めることが市民の間に保証され活発に続けられている、それを培ったものとして、フリー・スピーチ・ムーブメント(言論の自由運動)や、60年代の公民権運動、ベトナム反戦運動発祥の地として、カリフォルニア大学バークレー校と、その学校の広場が紹介され、市民にとって、この町の民主主義にとっての聖地であることが語られ、そういう場所があったのだと知りました。確かにこの広場のことはこれまで何度も観てきたけど、どこにあるなんという場所だというのは知らず、この映画で知りました。この60,70年代の話で出てきたキング牧師の説教シーンやバックに使われたジョーン・バエズの「私の試練」「勝利を我らに」などの歌も私にとっては懐かしかった。
そして、市議会でのフリー・スピーチによる政治参加や意思表明の伝統、議論の大切さなど、40年近くたっても世代を超えて伝えられているのがよくわかりました。短い作品でしたが、この町のそういう歴史が、文化や多様性の中で熟成して、バークレーという町は、そういう行動的な町なのだと教えてくれました。20年前に作られた映画だけど、今の私たちにもとても参考になる手がかりをくれる内容だと思いました。
武蔵野市民なので、この2作品を観て、この記事を書くにあたって、2021/12/21の外国籍住民にも門戸を開く東京都武蔵野市の住民投票条例案が否決された記事を見てみました。すると反対14票、賛成11票で否決に至ったとあり、そのキャスティングボートを握ったのは自民党かと思ったら、中立を掲げる2人会派の人の意見だったということを知り、とてもがっかりしました。その方は「今回勇気を持ってブレーキを踏むことを決めました」と語ったそうですが、武蔵野市は選挙などを見ても革新が強く、このバークレーに近いかもと思っていたのに、そうだったんだと思いました。松下玲子市長は「多様な声を市政に反映したいとして、外国籍の住民の参加を認める住民投票条例案」を提案したと語っていますが、反対派の議員は「外国人への投票資格付与には一定の基準が必要」「市民の理解が深まっていない」「外国人参政権を広い意味で与えることになる」などという人もいたようです。しかし、去年(2021)3月の市民アンケートでは外国籍の住民を投票資格者に含めることに73・2%が賛成だったとのことで、少しほっとしました。でも、市民と議員との間の思いのギャップがかなり大きいのはどういうことという気もします。市民の中には「こういう制度がなければ外国籍の方が意見表明する場はない。むしろ必要な制度」という風に語った人もいるようで、こっちのほうがまともな意見だと思う私です。
24 日は〈改憲=日本軍がまたやってくる〉というテーマで映画3本と講演があります。
(宮崎暁美)


